世界のファインダイニング by 江藤詩文

第8回 東京らしさを纏ったベトナムの香り、攻めてる!「An Di(アンディ)」(東京都・外苑前)

ベトナム料理、大好きです。

だから常々思っていました。フレンチのエスプリを内包したこのポテンシャルの高い料理を、才気あるシェフが再構築したらどんな料理が生まれるのだろう、と。

日本人にも親しまれている麺料理フォーは、酒かすと白トリュフのオイルで味変

ところが。ベトナムにはそんなファインダイニングは存在しなかったのです。もちろん人気の観光地ですから、おしゃれでラグジュアリーなモダンベトナミーズのレストランはたくさんあります。でも、たとえば「アジアのベストレストラン50」に躍り出てくるような、攻めてるイノベーティブなレストランはない。

宮廷料理がルーツの古都フエの米粉とキャッサバの「バインベオ」が美しく変身

じゃあどこにあるかというと、それがここ「An Di」です。

日本にある東南アジアの料理店は、現地の味を日本人の嗜好に合わせて再現したカジュアルなタイプが大半ですよね。お客さんが食べ慣れていなかったり、よく知らなかったりする料理を再構築するって、実はとても難しいのです。

五味がすべて詰め込まれ、さらにさまざまな食感を楽しめるティーリーフサラダ

たとえば「An Di」のシグネチャーディッシュ「ティーリーフサラダ」。これは発酵させた茶葉にピーナッツやごま、乾燥した小魚などを添え、混ぜながら食べる旧インドシナの料理で、現在でも世界最貧国のひとつミャンマーでは、お茶請けや食事のメインとして、毎日のように食べられています。

これを現地のスタイルを踏襲しつつ、洗練されたファインダイニングのひと皿に仕上げ、この料理を知らないゲストにも「めずらしい食材のおいしい料理」として伝える。フランス料理を習得した内藤千博シェフの技術力を感じずにはいられません。

フレンチらしい火入れの栃木産鴨肉には、東南アジアのスパイス馬告(マーガオ)の香りを添えて

「An Di」のもうひとつの魅力が、料理とのマリアージュを楽しめるワインのセレクション。日本初のワインテイスター・大越基裕さんが、アジアのフレーバーとマッチする、無限に自由なワインの世界に誘ってくれます。JALのワインアドバイザーもしているので、旅好きなみなさんは、メニューに載った大越さんを機内で見たかもしれませんね。

シェフの内藤千博さん(左)とオーナーソムリエの大越基裕さん

さて、冒頭で「ベトナムにイノベーティブなレストランはない」と書きましたが、実はちょうど1年前に1軒だけハノイで見つけたのです。こちらはまたいつかご紹介するとして。

日本でのポップアップを熱望していたハノイの若きシェフ。旅ができるようになったら、内藤シェフとのコラボが見てみたい。そんな日がやってくることを夢見ています。

「An Di(アンディ)」
http://andivietnamese.com 公式ウェブサイトからオンライン予約できます。

2020年、広尾に姉妹店「An Com(アンコム)」がオープンしました。

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