世界のファインダイニング by 江藤詩文

第68回 拡張と収縮が美しく調和する、時空を超えた”天国に一番近い”ガストロノミー「MIL Centro」(ペルー・クスコ)

▲クスコ郊外、インカ帝国時代の農業試験場とされる「モライ遺跡」のほとりに、
景観に溶け込むように佇む「MIL Centro」

職業柄、以下ふたつの質問を毎日のようにいただきます。「おすすめのレストランはありますか?」そして「好きなレストランはどこですか?」

前者はとても難しい。レストランの好き嫌いは食べ手の好みや経験によるので、私のお気に入りのお店が質問者に合うとは限らないのです。けれども後者ならアンサーは「MIL Centro(ミル セントロ)」。

前回の記事に「ペルーに行きたくなった」と多くの反響をいただきました。ちょっと待って。地球のほぼ反対側に位置するペルーへ行くなら、間違いなくマチュピチュにも行きますよね。

マチュピチュへの列車の車内放送でも「一生に一度の特別な体験」と何度も繰り返していたので、おそらく世界中の大半の人にとってクスコ「一生に一度」の旅先なのかも。だからこそ、みなさんには絶対に逃してほしくないのです。この天国のような場所「MIL Centro」を。

「MIL Centro」は前回ご紹介した「Central」の姉妹店で、アンデス山中の標高3568mと、文字通りおそらく世界で一番”天国に近い”レストランです。…と便宜上書きますが、レストランという単語はこの場所には合わないかも。Central」がペルー全土を広い視点で俯瞰的に表現しているのに対して、「MIL Centro」はインカ帝国の文化を継承する先住民族・ケチュアの人々の暮らしに近視眼的にフォーカス。共に生きるあり方は「コミュニティ」や「共同体」と言うと、むしろしっくりくるかもしれません。

▲「MIL Centro」の周辺で採集された植物。
この土地に根ざす先住民族ケチュアの人々は食用のほか
薬、繊維、染料と多様に使いこなす

▲羊を飼い、毛を刈り、系にして植物で色を染め、機織り機で布を織る。
そのすべてを手作業で行いカラフルな美しい布ができあがる

ケチュア語を守り、厳しい自然の中で受け継がれた日々の営みは、人間の叡智そのもの。いつもは無宗教な私でさえ、ここに来ると神様と呼びたくなる圧倒的な何かの気配を感じます。「それが自然のすべてを司る母なる大地の神・パチャママです」と、Cletoさんがそっと教えてくれました。

▲「パチャママ」に捧げものをするケチュア族のネイチャーガイド Cletoさん

そんな美しいケチュア族の文化を落とし込んだ料理は、人々が描いた夢をかたちにして味わっているよう。料理にこんな表現はおかしいと自分でも思いますが、神々しく清らかな味わいです。

▲ケチュア族の主食はじゃがいもととうもろこしで、どちらもペルーが原産。
じゃがいもは3000種類以上、とうもろこしは1000種類以上あるとされ、
今も発見されていないものがあるのではないかと言われている

▲食事の前にCletoさんに案内してもらった花やハーブといった高山植物が
夢のように美しくデザインされ、料理やドリンクとなって登場。
料理は、ひと皿ずつ使われた食材にちなんだ風景や植物が描かれたカードが添えられる

一生に一度の体験。そんな天国に再び来られたというのに、なんと私は大失敗をやらかしました。「MIL Centro」では現在 ①植物散策と食事 ②地元のコミュニティ交流と食事 ③食事のみ の3つの体験コースが用意されています。「植物散策と食事」は前回体験したので、今回は「地元のコミュニティ交流と食事」を選ぶつもりでしたが、このエクスペリエンスの所要時間はなんと6時半から7時間。飛行機の都合で参加できませんでした。無念。

一度と言わず、なんなら2日間にわけて「植物散策と食事」と「地元のコミュニティ訪問と食事」の両方を体験したいくらい愛するmy天国。みなさまはどうか「MIL Centro」の予約を中心に、時間にゆとりを持って旅のスケジュールを組んでくださいね(涙)

MIL Centro https://milcentro.pe 

*公式サイトから予約できます(英語・スペイン語)
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます。 

協力/PROMPERU ペルー貿易観光投資庁 https://www.peru.travel/jp 

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