世界のファインダイニング by 江藤詩文

第60回 美しすぎるサステナブル。やわらかな光に包まれてきっと天国ってこんな感じ? 「Azurmendi」(スペイン・バスク)

ガラス張りのモダンな建物の扉を進むと、そこには楽園がありました。

独自の美食文化を誇るバスクで、スペイン史上最年少で三つ星に輝いたエネコ・アチャさん率いる「Azurmendi(アスルメンディ)」。さすがに三つ星はわたしには敷居が高く、やや緊張しつつレセプションで予約名を告げようとしたその瞬間。「シフミさん、ようこそ! 喉が渇いたでしょう。さぁさぁ、まずは駆けつけ一杯」と、穏やかな笑顔でチャコリ(バスク州の白ワイン)を差し出され、ふんわりとした温かさに包まれました。なんとこのレセプショニスト、すべてのゲストに正しい名前で呼びかけているのです。

     ▲自然散策しながらアミューズを楽しむという世界で唯一の体験が楽しい

チャコリのお供はバスクの名物を美しく詰めたバスケット。水音を聞きながら、緑に包まれて思い思いの場所でピクニックを楽しむ趣向です。続いてピカピカに磨かれた広々としたキッチンで、シェフと共に卵を見つけ(スペシャリテの「トリュフ卵」を含むいくつかの料理がサーブされます)、花が咲き誇る「グリーンハウス(温室)」では、白いバラ(カリフラワーのムース)などのお花摘み。赤いバラを摘もうとしたらしずく(ジュレ)が光を受けてキラリ。なんなんだこの多幸感は。嬉しそうに笑いさざめくゲストが幸福感をさらに増幅させていきます。

 ▲「Azurmendi」オーナーシェフのエネコ・アチャさんは
穏やかでちょっとシャイな人でした

料理は人だなと日ごろつくづく思うわけですが、「Azurmendi」の料理はまさにエネコさんそのもの。真の美しさを自然の中に見い出し、バスクの文化を大切に受け継ぎ、自分が生まれ育ったよく知る土地の環境を守りながら、おいしい料理でお客様をお迎えする。そんな彼は大の親日家でもあります。

「日本人もバスク人も季節の移ろいや自然にさまざまな楽しみを見つけて、それを生活の中で愛おしんでいます。また、控えめな部分もありながら新しいものへの好奇心が旺盛で、お客様をおもてなしするのが好き。共通点が多いと思います」

 ▲ものすごく緻密に構成された料理は
別次元の完成度ながら気負わず楽しく食べられるのが不思議

これだけ天国のような雰囲気ながら、実はバスク最大の都市ビルバオのベッドタウンで、高速道路が通っているような郊外にある「Azurmendi」。ビーチや山、森といったロケーションの力を借りているわけではないのです。それでも自然を大切にしながら、サステナブルに取り組むことで、こんな幸せな場所をつくり出すことができるとは。

  ▲ダイニングの屋上にある「サステナビリティセンター」は
希望すれば誰でも見学できます

レストランを取り巻く敷地には、オーガニックの野菜やハーブが植えられたガーデンがあり、併設する「サステナビリティセンター」では、地域の大学や研究機関と協力してバスク地方の固有種の保存や研究に取り組んでいます。また、太陽光発電を導入し、地熱や雨水を利用するなど、自然の力を活用したエコシステムを確立しています。

週末以外はランチ営業のみなのも、太陽が昇っている時間に活動して、日が沈んだら休むのが自然と人間の本来のリズムに適っているから。つまり電力の使用を減らすだけでなく、働くスタッフの健康にもやさしいわけです。

     ▲レストラン全体が太陽光を生かしきることを考えて設計されています

ひとりの青年が描いた夢を具現化した理想の桃源郷。こんなレストラン、日本にもつくることができるのでは。食べ手にもそんな夢を見せてくれる「Azurmendi」はやっぱり世界一の天国です。

Azurmendi https://azurmendi.restaurant/ja/

*公式サイトから(日本語で!)予約できます。
*東京にも姉妹店「ENEKO Tokyo」があります。
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます。

取材協力
スペイン政府観光局 https://www.spain.info/ja/

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