世界のファインダイニング by 江藤詩文

第47回 “ソワニエ力”を磨いて臨みたい! 王国で続くグランメゾン文化の風格「Le Louis XV ‒ Alain Ducasse à l’Hôtel de Paris ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス・ア・ロテル・ド・パリ」(モナコ/Hôtel de Paris Monte-Carlo)

いまや日本を代表するスターとなったシェフが、こんな思い出話を聞かせてくれました。「フランス修業時代、生活を切り詰めて貯めたお金を握りしめて、憧れのLe Louis XV ‒ Alain Ducasse à l’Hôtel de Paris ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス・ア・ロテル・ド・パリ(以下、ルイ・キャーンズ )で食事をしたいと、ひとりでモナコまで行きました。だけど店の前には立ったものの、気品溢れる空間と洗練された物腰のギャルソンに圧倒され、小僧だった僕は入ることができなかった。あの時の僕のリベンジを託しますので楽しんできてください」


(イブニングドレスやタキシードが似合うルイ・キャーンズのダイニング。
真っ白なクロスが似つかわしい)

地中海に輝くモナコ王国。その最高級に位置付けられるパラスホテルのグランメゾンがルイ・キャーンズ(2023年ももちろん三つ星を維持)です。天井画とシャンデリアに彩られた格式高い空間は、まさに思い描くパラス(宮殿)そのもの。メールドテルの指揮の元、群舞を舞うような指先の動きまで美しいソムリエやギャルソンに迎えられ、最初の楽しみ、メニューの組み立てが始まりました。

(パンのお供のフレッシュバターやその場で潰す胡椒、
小さなガーデンごと運ぶハーブティなどゲリドンサービスも完璧)

すべての料理はAlain Ducasse アラン・デュカスがプロデュースしていますが、実際に厨房を取り仕切るのは、デュカスの右腕として活躍するEmmanuel Pilon エマニュエル・ピロンさん。モナコに着任するにあたり、「料理の前にまず素材があり、それをつくる生産者がいて、すべての食は土地つまり地球と繋がっている」というデュカスイズムを大切に、地中海の風土への理解を深めたそう。

「お客様はデュカスの哲学や表現をよくご存じです。この土地の恵みを用いてデュカスの世界を創造することが私の使命です」とエマニュエルさん。

(モナコはサステナブル・ツーリズム先進国。
ルイ・キャーンズもいち早くサステナブルなガストロノミーを提唱してきました)

そう、グランメゾンの世界は、食べ手もまた料理人の理解者です。メニューには、その日の最良の食材を使った料理名がアラカルトでずらりと並びます。一応、前菜・メイン(肉・魚)・チーズ・デザートがそれぞれ5、6種類ずつとゆるく分類されていますが、前菜をメインのポーションにすることも、少量多皿にすることもお好みのまま。食材があればメニューにない料理もお願いできます。

ゲストはメニューを読みこなし、デュカスの世界観と季節、食事の目的、自身の好みなどを考え合わせながらオートクチュールのコースをつくっていくわけです。(初訪問や初心者のためにセットメニューもありますのでご安心を!)

(プロバンス地方を中心に地中海の風を受けて育った野菜は地中海を表現する大切なメイン食材。
ガストロノミーの表現と健康、サステナブルは調和して両立すると言います)

シャンパンを飲み、温かくフレンドリーなスタッフに相談しながら私だけのメニューができあがっていく至福のひと時。今から15年前ほどでしょうか。日本でも“ソワニエ”という言葉が取り上げられました。日本語で言うと”大切にしたくなるお客様”といったニュアンスです。それが突然脳裏によみがえりました。

(まるで壮大なオペラのようにチームが一丸となって
すばらしいドラマを演じ切ったスタッフのみなさん。右がシェフのエマニュエルさん)

私はもうすでに十分いい大人だけれど、ルイ・キャーンズでは年齢を重ねることがハンデになるどころか強みになる。食を通じて語られる歴史や文化、美術、建築、文化風習をもっと勉強して、“ソワニエ力”を蓄えてもう一度ここに帰ってきたい。それってなんて楽しいことでしょう。その時はそう、シルバーヘアをきりりと美しく結い上げて。

シェフから託されたリベンジはもう少しお預かり。未来の私へ手渡したいと思います。

<データ>
Le Louis XV ‒ Alain Ducasse à l’Hôtel de Paris ル・ルイ・キャーンズ アラン・デュカス・ア・ロテル・ド・パリhttps://www.montecarlosbm.com/en/restaurant-monaco/le-louis-xv-alain-ducasse-hotel-de-paris

*公式サイトから予約できます
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます

取材協力:モナコ政府観光会議局 https://monacotabi.jp/
モンテカルロ・ソシエテ・デ・バン・ド・メール https://www.montecarlosbm.com/en

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