世界のファインダイニング by 江藤詩文

第36回 古都の時の流れと土地の恵みの物語を映した料理が”記憶”と結びつく特別な時間「akordu アコルドゥ」(奈良県・奈良市)

6年ぶりに発表された「ミシュランガイド奈良2022特別版」で、初登場にしていきなり二つ星に輝いた「akordu アコルドゥ」。こちらでご紹介した「villa aida ヴィラ アイーダ」(※関連記事はこちら )に続くローカルガストロノミーのスター誕生とあって、「“旅恋”はいいレストランを見つけるのがうまい」とフーディーズに褒められ、勝手に自画自賛しています。

(光と緑が美しいメインダイニング。鹿がここまで散策に来ることも)

のんびりした鹿の群れを眺めながら奈良公園を進んだ東大寺旧境内跡の一軒家。ロケーションも素敵な「akordu」 での時間は、トランプのようなカードの束からはじまりました。白いカードの真ん中にぽつりと一行書かれているのは「縞鯵と古都華苺のメヒカーノ」(トップ画像)といった料理名とわかるものもあれば、「冬を過ごし、また春が来る」と詩的なことばだけのことも。

ことば、料理、ことば、料理と交互にやってくる演出に、まず引き込まれました。

(「冬を過ごし、また春が来る」はディルとローズマリーが香るひんやりしたカリフラワーのムース)

「僕は味つけ(調味)と味わいは異なると思っているんです」とオーナーシェフの川島宙(ひろし)さん。物静かな語り口でこう続けます。「たとえば子どものころ、外国の食文化に憧れながら食べたハンバーガーや、夏休みに遊びに出かけた海の思い出とセットになったラーメン。そういったものは味つけとして必ずしも優れているとはいえませんが、さまざまな記憶と共に食べることで、懐かしいような味わいを感じて、いまも嫌いではありません」

(オーナーシェフの川島宙さん)

「奈良の土地が育んだ動物や植物、生産者の人々の思い。僕たちはそれを託されて、すべてひっくるめて料理をつくるわけで。だからこそ、ここで食べていただく料理は、単においしいで終わるのではなく、食べ手がこれまで経験した記憶のどこかに引っかかり、物語を呼び覚ますものであって欲しい」

そんな思いを込めてバスク語で「記憶」を意味する「akordu」を店名にしたと話します。

(「土にまみれた野菜」奈良の伝統野菜を土に見立てた黒オリーブと共に)

(ワインだけでなく奈良のお酒も組み込んだペアリングも魅力的)

ここでしか体験できないことばと料理の共演。川島さんの料理に誘われ、ひさしぶりにゆっくりと記憶を手繰り寄せる時間は、歴史を感じる奈良にとても似つかわしいものでした。

akordu(アコルドゥ)https://akordu.com
電話(番号は公式サイトで案内されています)のほか「食べログ」「一休」など各種予約サイトから予約できます

* 料理はすべて訪問時のもの。季節などにより変更されます

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