2025年の2月、プライベートで山形県鶴岡市を訪れました。
あたり一面を覆うほどの雪の中、友人に案内をしてもらう30年ぶりの鶴岡。出羽三山神社は当初の目的地ではなかったけれど、以前から一度は訪れてみたいと思っていた場所でした。
「雪が降っているからやめる」ではなく「雪だけれど、今だからこそ見えるものがあるかもしれない」そんな期待を持ちながら山の方へ。
神社の鳥居。ここから先は、日常と神域の境目
鳥居横のポストにも雪帽子。白い世界に赤が映える
膝まで埋まるほどの雪の中、鳥居をくぐって境内へと続く参道は、見事なまでに真っ白。
色も形も、細かな情報も、雪が静かに覆い隠していました。
音もまた然り。人の気配も遠くの景色も全てが吸い込まれているようで、残るのは雪を踏みしめる感触と、自分の呼吸だけ。参道を歩き進めると思考もどんどんと削ぎ落とされて、余計な情報が消えていく時間は、まるで坐禅をしているようでした。
見上げると杉の木立が空を覆っていた
出羽三山は羽黒山・月山・湯殿山の三つの霊山からなり、古くから修験道の聖地として信仰を集めてきました。羽黒山は現世、月山は死後の世界、湯殿山は再生を表し、三つの山を巡ることは人生そのものをなぞる行為ともいわれています。
今回訪れた羽黒山は、その入口にあたる山。三山の中で唯一年間を通して参拝できる場所でもあります。
生きている今、この身体で歩く山道。羽黒山の参道は、生と死の境界に足を踏み入れるような、どこか非日常的な空気をまとっていました。
雪を纏って静かに佇む木造の五重塔
この日はさすがに雪が深すぎて、残念ながら五重塔までしか行くことができませんでしたが、そこへ辿り着くまでの道のりだけで十分。
杉木立の中に静かに現れたのは立派な木造の五重塔。平安時代に創建され、現在は室町時代に再建されたもので、東北地方に現存する五重塔の中でも最古級とされ、国宝に指定されています。
釘を一本も使わずに、木と木を組み上げて生まれた構造。そのディテールは美しく、雪を纏いながらもその輪郭は驚くほどくっきりと浮かび上がっていました。約600年という時間を、地震や豪雪を受け止めながら生き延びたその姿は「建築物」というより、まるで森の一部のようでもありました。
雪は本来視界を奪い情報を減らすものですが、静かな杉木立の中に五重塔という存在だけを際立たせていたのです。圧倒された私は、写真を撮る前にしばらく見上げてじっくりとその佇まいと対峙。雪が降り続くことで、その時間さえも緩やかに感じられました。
もし雪がなければ、もっと先へ進めたのかもしれません。けれど、五重塔までしか行かれなかったからこそ、ここで立ち止まり、じっくり向き合うことができたのです。
雪原の向こうの気配はまるで絵本のよう
また季節を変えて訪れたいと思います。緑に包まれた出羽三山も、きっと美しいでしょう。それでも、雪に覆われたこの日の記憶は、私の中で特別なまま残り続けるはず。行けなかった先があるということは、旅を終わらせない理由になるのです。雪の出羽三山は、次の旅のきっかけをもらった場所となりました。














