トコトコ東北 by 川崎久子

第40回 湯に身を委ね、暮らすように泊まる。肘折温泉で味わう「湯治のススメ」(山形県・大蔵村)

貸切風呂

忙しない日常から少し距離を置きたくなったとき、ふと「静かな温泉で、何もしない時間を過ごしたい」と思うことがあります。誰かと予定を合わせる旅ではなく、自分の気分を最優先にできる、気ままなひとり旅。
そんな旅の行き先として脳裏に浮かんだのが、山形県の肘折温泉です。月山の麓、カルデラの中にすっぽりとおさまる小さな湯の里は、1200年以上の歴史を持つ湯治場。派手な観光施設がない分、時間の流れはゆるやかで、訪れる人を穏やかに受け入れてくれます。

今回投宿したゑびす屋旅館は、新庄駅と肘折温泉を結ぶ村営バスの終着地・肘折温泉待合所のすぐそばにあります。部屋数が10室に満たない小さな湯治宿で、館内はどこか懐かしい雰囲気が漂います。
客室は広縁付きで、ひとり旅には十分な広さの和室です。すでにお布団が敷いてあり、のんびり過ごせそう。さっそく、旅装を解いて温泉へ向かいます。



ソファーが置かれたパブリックスペース

廊下の片隅にあったこのスペースが居心地いい!

肘折温泉では、源泉を温泉組合で共同管理しています。ゑびす屋旅館には2号・3号・4号泉の源泉が引かれており、この3本を合わせると、毎分1500ℓもの湯が自噴しているそう。湯量はかなり豊富です。

女性用の内湯


泉質はナトリウムー塩化物・炭酸水素塩温泉。神経痛や冷え性のほか、美肌効果も期待できるといわれています。宿には混浴の大浴場のほか、貸切風呂、女性用の小さな内湯があり、女性なら3つの湯どころを楽しめるのもうれしいポイントです。

混浴の大浴場


湯はやわらかな肌触りが印象的。源泉がかけ流される音を聞きながら湯船に身を沈めるひと時が、日頃の疲れを癒してくれます。
湯治では、一度に長時間入浴するのではなく、回数を分けて入るのが良いとされています。湯から上がったあとは無理をせず、体を休める。浴場は24時間利用可能なので、朝・昼・晩と、自然と足が向かいます。

湯治において、食事も大切な要素のひとつ。ゑびす屋旅館でいただけるのは、土地の食材を生かした素朴な湯治食です。華やかな会席料理も魅力的ですが、日常の延長線上にある湯治の時間は、やさしい味付けで、量も控えめに整えられた料理が体にありがたい。特に山菜は宿のご主人が山で採取したもので、1年を通して山菜料理を提供できるよう保存方法も工夫しているそうです。


川魚や山菜などで丁寧に作られた夕食

ゑびす屋旅館での滞在は、観光の予定を詰め込む旅とは対照的です。温泉街を少し散策したり、部屋で本を読んだり。スマートフォンから少し距離を置き、自分の体調や気分の変化に意識を向ける。湯治とは、体を整えると同時に、自分自身と向き合う時間でもあるのかもしれません。
今の自分を知り、「湯」で「治す」という旅の形。今度のお休みに、湯治に出かけませんか?

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