世界のファインダイニング by 江藤詩文

第69回 ベトナム料理の可能性を国際水準に高めて世界に伝える、ベトナム初のスター女性シェフのホーム「Gia」(ベトナム・ハノイ)

▲ベトナム版ミシュランガイド一つ星、
初代のミシュラン・ヤングシェフ・アワードを受賞した「Gia」のSam Tranさん

初めて彼女の料理を味わったのはオーストラリア・メルボルンでした。ミシュランガイドがベトナムにローンチした2023年、一つ星(二つ星以上はなし)を得た、たった4軒のひとつが「Gia」(*ジアではなくザーと発音するそう)。10年以上を修業に費やしたオーストラリアに、ベトナムのスターシェフとして招かれていたのです。

▲「Gia」のテイスティングメニューから。
ハーブや野菜をふんだんに使いつつ野趣より洗練された味わいに仕立てる

汗まみれの小さな身体をすごいスピードで動かし、自分の倍近くもある大柄な男性の間でもみくちゃにされながら一歩も引かず、真上を見上げて的確に指示を出す。メインが終わって場が緩み始めてもひとり鋭い目をしたまま、最後のひと皿が最後のゲストに提供されるまで全神経を集中している。それを味わったゲストが「おいしい!」と顔をほころばせるのを見て、ふわっとほどけた笑顔になった彼女。それが「Gia」を率いる若き女性シェフ Sam Tranさんでした。

▲世界のファインダイニングがよりローカライズされていく流れをつかみ、
内観にも北部ベトナムの伝統を取り入れている

この人きっとすごい料理人になる。彼女のホーム(=ベトナム語でGiaはホームに由来)で料理を食べてみたい。そんな念願が叶ったのがそれから2年後のこと。

▲Samさんが考える北部ベトナムの食文化の基本形は野菜、
温かいスープ、少しのタンパク質とお米とか。「Gia」の料理もそのバランスをベースに設計

そもそもベトナム料理は、温暖な気候や豊かな水が育む豊富な食材と、南北に長い土地ごとに生まれた郷土料理、地理的に中国の、歴史的にフランス統治下の影響を受けて発展してきたため、ボトムラインでもクオリティが非常に高いのです。街場のレストランでじゅうぶんおいしい食事を楽しめるため、ファインダイニングがあまり必要とされず、結果的に世界から正当な評価を受けづらいとされていました。

▲日本人にもなじみのある「ヌクマム(魚醤)」など発酵由来のうま味を使うベトナム料理は
アジア人には親しみやすい。欧米でベトナム料理に救われることありますよね…

そんなベトナム料理の本質を、ベトナムの文化や空気、人々のたおやかさや優しさまでひっくるめて世界に発信する場所をつくりたい。それもファインダイニングの緊張感を持たず、旅人が素敵なホーム(Gia)に立ち寄るような気分で。伝統料理や郷土料理だけでなく、文化を織り込んだ料理は、それぞれ物語が添えられ、ベトナムをより深く理解できるように構成されています。

▲庶民の市場や伝統舞踊、ベトナムコーヒーやベトナム版かき氷「チェー」、
ストリートのフォーまで多彩な食を楽しんで、とSamさんは呼びかける

わずか2年の間に、料理の上手なシェフからベトナムと世界を繋ぐシェフへと進化したSamさん。自店だけでなく、カジュアル店から深夜の屋台飲み(笑)まで惜しげもなく情報をシェアしてくれるので、「Gia」をみなさんのホームに、ハノイをまるごと楽しんでください。

Gia https://www.gia-hanoi.com

*公式サイトから予約できます(英語・ベトナム語)
*記事内の情報はすべて訪問時のもの。季節やお店の事情により変更されます。 

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