藩政時代の秋田県湯沢市は、慶長11(1606)年に「院内銀山」が発見されて以来、鉱山を中心に大いに栄えました。人口は1万5000人あまりと、現在の秋田市にあたる城下町・久保田よりもにぎわっていたそうです。
人が集まるところには娯楽が生まれます。酒造米に適した良質な米がとれたこともあり、当時の湯沢では酒造りが盛んに行われ、最盛期には20以上の酒蔵があったとか。現在も4つの酒蔵が操業しています。今回、そのうち一般に開かれている2つの酒蔵をめぐってきました。
湯沢駅から歩いておよそ20分。静かな住宅街の中に、存在感たっぷりの木造建築が現れます。
明治7(1874)年創業の「両関酒造」には、国の登録有形文化財に指定された母屋と4つの内蔵があり、もちろん、今も現役。歴史の風格をまとった佇まいに、思わず足を止めて見入ってしまいます。
建物の中へ入ると、発酵由来のやさしい香りが広がり、蔵の扉や梁の力強さに圧倒されます。
関酒造は、雪国ならではの気候を活かした低温長期醸造を確立し、東北の酒造りの基礎を築いたといわれています。内蔵の中にある売店では、定番品のほか季節のおすすめ品の試飲も楽しめます。
ところで、「両関」という名には「東の名刀・正宗、西の名刀・宗近。東西の大関を兼ね、東西にまたがり君臨するように」という願いが込められているのだそう。歴史ある酒蔵ですが、女性杜氏の登用など、新しい挑戦にも積極的です。
さまざまなお酒を試飲した末に、地元限定の一本を旅の記念に選びました。

訪れたこの日は純米吟醸・両関や純米大吟醸・雪月花などが試飲にラインアップ。
両関から歩いて20分ほどで、「木村酒造」 が見えてきます。
創業はなんと元和元(1615)年。400年以上の歴史を誇る、湯沢屈指の老舗酒蔵です。
羽州街道に面した事務所棟は白壁の近代的な建物ですが、通路を抜けて奥へ進むと、歴史を感じさせる内蔵が姿を現します。
木村酒造の売店。商品が展示されている横に見えるのが内蔵の入り口。
木村酒造の酒造りは、昔ながらの手造り・寒造りが特徴で、雪国の凍てつく冬でも機械に頼らず、蔵人が五感を働かせながら手作業でていねいに酒を仕上げています。
古い蔵を活用した売店内には、内蔵に沿って伸びる通路に昔の酒造りの道具などが並び、400年の歴史を伝える展示も見られます。

展示スペース。古い民具のほか、酒造りの工程を説明する展示も。
看板銘柄は「福小町」ですが、もともとは「男山」という銘でした。明治14(1881)年、明治天皇の御巡幸の際に「男山」を献上したところ、甘くやさしい味わいを賞賛されたことから、「福娘」という銘を賜ったといいます。のちに湯沢が小野小町生誕の地であることにちなみ、「娘」を「小町」と改め、現在の「福小町」となりました。
大吟醸・福小町は令和6年度全国新酒鑑評会で2年連続金賞を受賞。ふくよかな香りと繊細な旨みに、「お土産はこれだな」と迷わず手に取りました。
今回めぐった2つの酒蔵からは、湯沢の人たちが酒造りを通じて、長い年月をかけて街の歴史や文化を大切に紡いできたことが伝わってきました。銘酒との出会いが、湯沢という街の奥深さを感じさせてくれました。










