温泉宿の楽しみは、“地元のいいモノ”との遭遇だと思うのです。標高およそ900m、八幡平市の山あいにある小さな温泉郷・松川温泉の峡雲荘では、うれしい出合いが待っています。
峡雲荘の温泉は、ほのかに青色を帯びた乳白色の湯。湯の花がたっぷりで、湯船に身を沈めると、手足が見えなくなるほど濃厚です。
露天風呂はブナやミズナラが豊かに茂る森に臨み、もう眼福。夏はややぬるめに整えられているので、ゆったり湯あみを堪能できます。
松川温泉の泉質は単純硫化水素泉。旅人には気持ちのいい湯なのですが、宿のご主人にとってはかなり大変。というのもこの温泉は金属を腐食させる性質があるため、電気や水道の設備がすぐにダメになってしまうのだそう。大浴場にカランがないのもその影響で、ご主人の髙橋さんはご不便をおかけしますと申し訳なさそうに話します。でもそれは、裏を返すと“いい温泉”の証。多少の不便など気になりません。
女性の大浴場には専用の露天風呂がある。
夕食は、岩手の食材の豊富さをしみじみ感じる時でもあります。山菜や清流育ちの川魚など、山の幸が彩も美しくお膳を飾ります。
例えば、オレンジ色の鮮やかなお造りは、八幡平サーモン。「日本の名水百選」の一つに数えられる金沢清水で育てられ、身にほどよく脂がのっているのが特長です。峡雲荘の名物「ホロホロ鳥鍋」には、岩手県産のホロホロ鳥を使用。淡白な味わいのホロホロ鳥を地元の野菜と合わせたつゆでさっと煮れば、噛むほどに上品なうま味がしみ出します。
夕食のお膳。※食材は季節や仕入れで変わります。
峡雲荘はパブリックスペースもステキ。
ロビーにはこの空間のためにあつらえたオリジナルの囲炉裏テーブルが置かれ、洗練された民芸調のインテリアでまとめられています。
囲炉裏テーブルのあるロビー。
ロビーの窓から見える風景も爽やか。
朝食の後は、こちらのロビーにてコーヒーが供されます。
コーヒー豆は地元のカフェで焙煎されたものを使用。さらにおやつとして地元の製菓店のお煎餅、豆腐店の豆乳ワッフルや豆乳ドーナツなどが日替わりで用意されます。ここでもまた、地元のおいしいものを紹介したいというお宿のおもてなしの心が感じられます。
レトロな木製のスキー板や民具などを館内の随所に展示。
ロビーの一角にあるショップにも、地元のいいモノがずらり。
八幡平は日本初の商業用地熱発電所があることで知られています。この地熱の蒸気を活用した地熱染めという特殊な染色技術で染めたカラフルなアイテムがそろう他、手編みのカゴや漆器など、小さなショップながらアイテムは多様です。
写真上段はあけびつる細工のかごと地熱染めの巾着袋。下段は安比塗の片口。
盛岡市内が30度以上を記録しても、松川温泉のあたりはそれより数度気温が低いそう。地元のいいモノの出合える峡雲荘で、この夏、避暑するのもおすすめです。