「客家ロマンチック街道」を辿り、スローな旅を満喫 Vol.3

台湾に“ロマンチック街道”があるのを知っていますか? 今、国内外の旅行者から人気上昇中なのがこのルート。北は台北から最南県の屏東(ピンドン)まで山間を縫うように走り抜け、沿線にはのどかな風情の見どころが集まっています。なかでも興味深いのは、客家(はっか)人の里。独特の茶文化や染め物など先祖伝来の風習が息づき、レトロな町並みは趣たっぷりです。また、周辺には花の名所や温泉といった癒しスポットも点在しています。今回は、このルートを3編に分けて紹介! 最終回となるVol.3では、クラフト&アートと花の町「三義(サンイー)」をクローズアップします。

 

客家ゆかりのクラフト文化と花を楽しめる「三義(サンイー)」

三義は、苗栗(ミアオリー)県の南端にある山間の町。住民の大半を客家人が占め、台湾でも指折りの客家人の里として知られています。その昔、一帯は原始林で覆われ、戦前はそれを活用したクスノキ産業で発展。特にセルロイドの原料となる樟脳(しょうのう)油では、世界有数の生産量を誇ったほどです。現在は木彫の町として注目され、工芸品のショップが集まるほか、数々の木彫をテーマにしたアートスポットも誕生しています。

およそ100年の歴史をもつ三義の木彫工芸。ピーク時の1960~1970年代には、約1200軒もの製造業者があったそう。今も、住民の3人にひとりが木彫産業に携わっている

 

また、客家伝統の藍染め体験をできる施設があったり、町なかアートを楽しめたりと、伝統工芸からコンテンポラリーアートまで幅広いクラフト文化を堪能できるのが魅力です。また、春はこの町がもっとも華やぐシーズン。アブラギリの真っ白な花が山肌を染め、それを目当てに台湾中から花見客が訪れます。

廣盛老街にある「3D繪天梯」は、三義の観光名所をデザインした階段。客家伝統の花布柄をモチーフにした建物もキュート!

 

春は客家のシンボルフラワー、アブラギリの季節

まもなく訪れる春本番。日本人が真っ先に桜を思い浮かべるように、台湾ではこの季節、多くの人々がアブラギリの花をイメージします。なかでも、開花を心待ちにしているのが客家の人々。移民当初、困窮する暮らしを凌ぐため、彼らは集落のまわりにこの木を植え、種子から油を採ったり、日用品をつくる製材にしたりして生活の糧としたそう。そのためアブラギリへの感謝の気持ちが強く、“客家のシンボル”として親しんでいます。この花の名所が、客家の里の近くに集まっているのはそのため。特に三義は、国内屈指のアブラギリの花見スポットとして知られています。

国民的な人気を誇り、開花シーズンが近づくと、桜前線ならぬアブラギリ前線が発表される。開花状況のチェックはこちらのサイトでhttps://tung.hakka.gov.tw/Default.aspx?lang=3

 

~四月雪小徑 スーユエシュエシアオジン~

純白の花の小道を散策

三義では4月下旬から5月上旬頃にかけ、純白の花を咲かせるアブラギリ。でも、花の命はたった1週間ほどしかありません。ところが、実はこの花の人気の秘密は散りぎわの美しさにもあり! 儚い命を終えると、ツバキのようにつけ根部分からポタリと花を落とし、無数の花が地面を埋めつくします。その様子は、まるで雪が降り積もったよう。そのため、台湾ではこの光景を「4月の雪」または「5月の雪」とネーミングしています。

ひとつの枝からいくつもの可憐な花を咲かせるアブラギリ。そのままブーケにできそうな華やかさ

「四月雪小徑」は、その名を冠した散策路。沿道には約200mにわたってアブラギリの林が続き、花見シーズンには台湾各地からたくさんの人々が訪れます。花の時期は年によって前後しますが、例年はちょうどゴールデンウィークあたりが見ごろ。足を運ぶ際は、ぜひベストシーズンを狙ってくださいね。

観光のメインスポット「三義木彫博物館」の脇に入口がある。緩やかなアップダウンのある散策路の一部にアブラギリが集中している

 

三義は台湾きっての木彫ワールド

苗栗県は面積の80%近くを山野が占め、「山城」とも呼ばれるエリアです。なかでも三義は「台湾一の木彫王国」として有名で、町のメインストリートとなる水美街(シュイメイジエ)には木彫の店がズラリ! 1kmほどの距離に、約200軒もの木彫工芸店が集まっています。ただし、どの店も大きな切り株の置物やら、仏像やら、シブ~いデザインのものばかり(笑)。精緻な細工は見る価値があるので、美術品を見るつもりで散策するといいでしょう。

インテリアにするには……ん~シブい! でも、圧倒されそうなほど迫力たっぷりのつくり

 

対して、少し西にそれた神雕邨(シェンディアオツン)という通りはおみやげ探しにピッタリ。長さ200m足らずの商店街になっており、木彫りの置物や雑貨など手ごろなアイテムが見つかります。樟脳油を使った石けんやアロマオイルもおすすめですよ。

神雕邨で見つけたストラップ。ひょうたんは台湾では幸せの象徴。身につけていれば、何かいいコトがあるかも♪

<モダンに進化する三義の伝統クラフト>

100年ほど前にはじまったという三義の木彫工芸。このほかにも、山間で暮らしてきた客家の人々には自然の草木を取り入れたクラフト文化がいくつか伝わっています。そして、近年は、それらの伝統クラフトは先人たちがビックリするほどモダンに変身しています。ここでは、旅先として立ち寄りやすい2つのスポットを紹介しましょう。

神雕邨のはずれにある三義木彫博物館では、地元の木彫の歴史やアート作品を展示。建物の前は、毎年10月に行う「三義国際木雕芸術祭」の主会場。まさに、三義アートの発信地

~三義藝術村 サンイーイーシューツン~

創造力豊かなコンテンポラリーアートが大集合

かつて木材の集散ルートだった三義には、自然と彫刻家が集まるようになったそう。過去には何人もの名工がここで生まれ、近年はその環境に惹かれた新進のアーティストたちが台湾各地から移住しはじめています。現在、三義に住む芸術家はおよそ100人。約8年前には、そのうちの約10人が「三義藝術村」をつくり、神雕邨近くでアトリエやギャラリーをオープンさせています。うれしいことに、そのほとんどは見学が自由。バラエティに富んだ作品に出合え、感性豊かな作品は見ごたえたっぷり。まるで、プチ美術館をめぐっているような楽しさです♪

優雅に泳ぐ金魚をモチーフにした彫刻は、周楊(ヂョウ・ヤン)氏の代表作。台湾の全国コンクールでの受賞歴多数。画家出身とあって、色づかいがカラフル


2015年にギャラリーをオープンした林景松(リン・ジンソン)氏の作風は、とにかくエキセントリック。75歳という年齢を感じさせないフレキシブルな発想力は、さすが!


仏教彫刻から現代彫刻の世界へ転身した張信裕(ヂャン・シンユィ)氏は、ハスや水をテーマにしたスタイリッシュな作品が得意。仏像がのるハスの花にインスピレーションを感じたそう

 

~卓也小屋 ヂュオイエシアオウー~

客家の女性が愛した藍染めにトライ!

客家の女性たちは、かつて「藍衫(ランシャン)」という藍染めの服を日常着としていました。天然の藍は防蚊や抗菌、保温といった効果のほか、肌荒れを防ぐ作用もあるといわれ、山仕事が多かった彼女たちの身を守るのに最適だったそう。残念ながら最近は藍衫を着る人はあまり見かけなくなりましたが、「卓也小屋」というレジャー施設では客家の藍染めを今風にアレンジして素敵によみがえらせています。

日本の阿波藍の染料が乾燥した葉を発酵させて作るのに対し、台湾では生葉から色素を抽出する。藍の品種の違いもあり、阿波藍よりやや赤みがかったやわらかな色みが特徴

 

園内は草木染めエリア、農園、レストラン、宿泊棟などに分かれ、さまざまなアイディアで藍染めを楽しませてくれます。いち押しは、やっぱり染め物体験。藍衫こそありませんが、アイテムはハンカチや巾着、ストールなど約20種類からチョイスできます。染色の際のポイントは、布を板で挟んだり、輪ゴムで縛ったりして染め残しの部分をつくる作業。工夫次第でデザインのバリエーションが無限に広がるので、できあがりをイメージしながら染めるのが楽しい~♪ 初心者でも、日本語を話せるスタッフがていねいに教えてくれるので安心です。

 

 

藍染め体験は9~16時、1日7回開催、要予約(当日予約OK)、1時間前後で染色作業を終え、あとは乾けば完成。ハンカチ250元~ ※1元≒3.6円(2018年3月現在)

 

体験工房のとなりには、オリジナル製品を扱うショップも併設。ストールやバッグといったファッションアイテムをメインに、ステーショナリー小物、マスコットなどもラインナップしています。色とりどりの草木染めの品も人気で、どれもハイセンスで、おみやげというより自分が欲しくなってしまうものばかりです♪ このほか、宿泊もOK。クッションやベッドランナーなど、随所に藍染め製品を散りばめたコテージタイプの客室がおすすめですよ。

自然を大切にする客家の人々にならい、原料の藍はオーガニック。栽培から染料の抽出、手染め作業まで一貫して園内で行っている

 

店内には、おしゃれな小物がいっぱい。上品な色みが、日本人の肌色にもピッタリ♪

あわせて訪れるなら……

三義観光では、レトロな鉄道路線「舊山(ジウシャン)線」ゆかりのスポットもマスト。アブラギリの季節は、特におすすめです!

 

<歴史遺産>

~龍騰断橋 ロントンドゥアンチアオ~

「龍騰断橋」は台鉄・縦貫線(現・台中線)の開通に伴ってできた鉄道橋で、完成は1906年。レンガ製の橋脚は美しいアーチを描き、かつては「台鉄の芸術作品」といわれたそう。ところが、1935年の大地震により崩壊。1000年もつといわれた頑丈な造りも震源からわずか5kmという距離では太刀打ちできず、10基の橋脚を残すのみとなりました。とはいえ、高さ50mあまりの橋脚が立ち並ぶ様子は壮観! 川の南北に分かれた橋脚を結ぶ散策路もあり、探検気分で見学できます。

 

震災以降は約60m西側に新設した鉄橋に役割を移行、やがて路線変更のため廃線となった。近年、地震遺産として保存されるようになり、観光スポットとしての注目度がアップ

 

景山渓の流れを挟み、北に6基、南に4基の橋脚を見られる。特に南側の橋脚は、迫力たっぷり! クモの巣を張ったようにびっしりと植物で覆われ、うっそうとした雰囲気

 

<レトロ駅舎>

~勝興車站 ションシンチョーヂャン~

1998年、縦貫線に新線ができると、15kmほどの区間が一部廃線に。そこに含まれていたのが勝興駅です。今もレトロな駅舎や3本のレールは、そのまま。普段は駅の構内に自由に出入りできるので、線路を歩きながら映画「スタンド・バイ・ミー」の世界のリアル体験もOKです。また、2010年から縦貫線が観光鉄道「舊山線(=旧山線)」として復活し、アブラギリの季節などにSL列車を運行。このほか、周辺には客家料理や擂茶(Vol.1参照)の店も軒を連ね、のんびり過ごすのに格好のスポットです♪

こぢんまりした駅舎。1916年に日本人の手により、クギを1本も使わずに建てられた。舊山線でもっとも高所に建つ駅で、標高は約402m。構内では鉄道の記念グッズも手に入る

 

<農園レストラン&ステイ>

~喆娟夢田 ヂョージュエンモンティエン~

「喆娟夢田」は、龍騰断橋と勝興車站の中間にある農園レストラン。鎌倉の江ノ電のように舊山線の線路がすぐ脇を通り、春にはアブラギリの花も見られる絶好のロケーションです。食後はもちろん、線路での撮影がマスト。宿泊もでき、舊山線三昧の旅や三義の自然をたっぷり楽しみたい人には特におすすめです。

ボリューム満点の創作チャイニーズを味わえる。野菜などの食材うち、約8割は敷地内にある自家農園で栽培

 

3回にわたって紹介した客家ロマンチック街道の旅。客家三銘茶を味わえる北埔(ベイプー)、老街散策が楽しい南庄(ナンヂュアン)、そしてクラフト&アートと花を堪能できる三義と、沿線の町はカラーこそ違っても、どこも豊かな自然とのどかな雰囲気に包まれています。この春は、そんな客家の里でスローな時間を過ごしてみませんか?

 

●Informaition

<四月雪小徑>

https://tung.hakka.gov.tw/0000028/article-0000825?lang=1

<三義藝術村(櫻花渡假會館)>

http://sakurasy.com.tw

<卓也小屋>

http://www.joye.com.tw/

<龍騰断橋>

http://miaolitravel.net/Item/Detail/%E9%BE%8D%E9%A8%B0%E6%96%B7%E6%A9%8B

<勝興車站>

http://miaolitravel.net/Item/Detail/%E5%8B%9D%E8%88%88%E8%BB%8A%E7%AB%99

<喆娟夢田>

http://zjmt.emiaoli.tw/

 

~過去記事はコチラ~

Vol.1

Vol.2

(取材・文/田喜知 久美、取材協力/中華民國客家委員會)

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