古くから“日向(ひゅうが)”と呼ばれた宮崎の地は、神話の舞台として知られ、神々との縁が色濃く残る場所です。天孫降臨の伝承や、初代・神武天皇ゆかりの逸話など、日本神話における重要な場面が、ここ宮崎に数多く刻まれています。
そんな宮崎の海岸線に沿って旅をして、「青島神社」と「鵜戸神宮」に立ち寄りました。どちらも海に抱かれるようにして佇む、神話と信仰の気配に満ちた場所でした。今回のニホンノカタチでは自然の造形美と信仰が溶け合うふたつの神社をご紹介します。
神域へと続く橋の向こう、青島神社へ
最初に訪れたのは、宮崎市青島の青島神社。小さな島全体が神域とされ、白い橋を渡って向かう本殿の周囲には、「鬼の洗濯板」と呼ばれる波状岩が波に洗われています。隆起と侵食が織りなしたこの岩肌は、太古から変わらぬ自然の力の痕跡。ここに立つだけで、独特なエネルギーを感じました。
波が削り出した不思議な模様は、“鬼の洗濯板”と呼ばれる自然の芸術
青島神社に祀られているのは、海神の娘・豊玉姫命と、山幸彦(彦火火出見尊)。神話によれば、ふたりはこの地で結ばれ、のちに神武天皇の父となる子をもうけたとされています。縁結びや安産の神として信仰を集めてきた背景には、こうした物語が深く根付いています。訪れる人々が静かに願い貝を手向けている姿に、静謐な神聖さを感じました。
青島神社を後にして南下し、日南市へ。鵜戸神宮は、断崖の中腹にある洞窟の中に本殿を持つ、全国的にも珍しい神社。波音が反響する洞窟の奥で灯明が揺れるさまは、どこか現実と神話の境界を曖昧にしてしまうような、不思議な静けさがあります。ここもまた、豊玉姫が子を産んだとされる地であり、その子「鵜葺草葺不合尊」は神武天皇の父。日本神話の重要な場面が、この海辺の洞窟に息づいています。
鵜戸神宮の名物である「運玉投げ」は、くぼみのある霊石に向かって願いを込めて玉を投げ入れる風習。岩にぶつかる音、海から吹き上げる風、そして挑む人々の真剣な表情も印象的でした。
ふたつの神社に共通するのは、自然そのものが神の存在を感じさせる舞台であること。岩や波、風や光、そうしたものが言葉にならないエネルギーとしてそこにあり、神話や祈りが生まれたのもきっと、この場所の力ゆえだと思わされます。
海のそばに立つと、人はふと謙虚になれるような気がします。不思議な「気」の流れを肌で感じた時、写真を撮るという行為もまた、ひとつの「祈り」に近いものなのかもしれないと思いました。
青島神社
〒889-2162
宮崎県宮崎市青島2丁目13−1
鵜戸神宮
〒887-0101
宮崎県日南市宮浦3232