第34回「星のや東京」で武士の稽古を取り入れたデジタルデトックスを体験(東京・大手町)

スマホもパソコンもデジタルカメラも預け、“心”と“体”を落ち着かせるーーー

日常を離れた上質な滞在ができる「星のや」で、今や日常生活に欠かせないデジタル機器から離れた「脱デジタル滞在」プログラムが好評を得ています。

高層ビルが建ち並ぶ“デジタルの森”のような東京・大手町の中心に位置する「星のや東京」でも、昨年12月から、江戸時代から伝わる「北辰一刀流」の剣術を学びながら、武士の稽古や黙想を取り入れた宿泊者限定の「脱デジタル滞在~武士の鍛錬~」が始まりました。旅恋代表の関屋と塩見が体験してきましたのでご紹介します。

 

1泊2日の脱デジタル滞在のスケジュール(例)は以下の通りです。

<1泊目>

15:00 チェックイン。デジタル機器を預ける

15:30 北辰一刀流稽古(試し斬り練習まで)

17:00 温泉

18:30 「Nipponキュイジーヌ」のディナーコース

21:00 スパトリートメント(約90分)

<2泊目>

6:15 黙想

7:00 めざめの朝稽古

8:00 おむすびの軽食

9:00 北辰一刀流稽古(試し斬り本番まで)

10:30 朝食

11:30 貸切温泉

13:00 チェックアウト。デジタル機器受け取り

 

チェックインしたら、まずは手持ちのデジタル機器を預けます。デジタル機器を入れるのは美術品や骨董品を保管するのに使用される桐の箱。今回は取材のため、手持ちのすべてのデジタル機器を預けることはしませんでしたが、腕時計まで預ける方もいらっしゃるとか。このプログラムの場合は客室のスピーカーなどの機器も一切なくしているそう。その徹底ぶりが心地よいですね。もちろん預ける機器は強制ではありませんが、この2日間はデジタル機器を一切遮断した滞在にひたってみてはいかがでしょう。あわただしい日常が一気に切り離されていくはずです。

桐箱に大切に保管されるデジタル機器

 

江戸三大流派「北辰一刀流」の師範に学ぶ剣術

歴史に詳しい方ならご存知かと思いますが、剣術流派「北辰一刀流」は、かの坂本龍馬が免許皆伝を受けた剣術最大の流派。現在、杉並区善福寺に道場を構える「北辰一刀流 撃剣会」の師範や局長に今回剣術を学びます。

客室で袴を着装した後、2階にある講堂にて、正座、礼、剣術動作の基本となる雑巾絞りと雑巾がけ、刀の構え方や足さばき、模擬刀を使った素振りなどの基礎稽古を習います。稽古を通して剣術の正しい型を学び、一日目は試し斬り練習まで行います。「何故雑巾絞り?」とも思いましたが、理由をうかがって納得。水の入った桶に手首まで漬けて副交感神経から交感神経へと体が目覚めていくことでケガしにくくなるそう。また、雑巾の絞り方は後ほど学ぶ刀の握り方にも大きく関係しているからでした。

正座や礼の所作などを丁寧に学んでいきます

 

「礼に始まり、礼に終わる」。武道で重んじられる作法から始めます。礼の仕方も常に敵を意識した姿勢を取るなど、ひとつひとつの所作に理由があることを初めて知ることができました。足裏をつけて歩く「歩み足」や「継ぎ足」などの足さばきも、普段使わない筋力を使うせいか、歩くだけなのに稽古していく内にしっとりと汗が出てきます。

一足一刀の間合い

次に、木刀を持って素振りの練習です。振り上げた刀をお尻までつける「大素振り」、腕を伸ばし刀を頭上に振り上げる「上段の構え」、木刀を持った相手と向き合って対峙しながらの「一足一刀の間合い」、斜めに相手を斬る「袈裟斬り」などの稽古へと続きます。

そして勢いよく刀を振り下ろす時に生きてくるのが、雑巾絞りなのです。力を入れて雑巾をしっかり絞って水を切るように、力をしっかり込めて刀の束を握らないと、勢いよく刀を振り下ろすこともできませんし、振り下ろした時に刀をぴたりと止めることができないのです。

刀の持ち方から振り下ろし方、素振りなどを習います

基礎稽古が終わったら、巻き藁に見立てたお麩でできた「試斬麩(しざんふ)」で試し斬りを行います。模擬刀を使った素振りを何度も行いましたが、やはり実際に試し斬りを行うとなると気持ちが違います。麩は、左右の力の入れ具合が異なると切り口がガタガタになってしまったり、刀を入れる角度によっては麩が折れたり割れてしまったり、型がなっていないと空振りしてしまうこともあるそうです。

関屋の型、なかなか決まってます

礼をして一日目の稽古は終了です。

 

都心の風と音を感じながら、大手町温泉で癒される

稽古でほどよく疲れた身体を癒す温泉は、星のや東京滞在の楽しみのひとつ。最上階にある内湯と露天風呂を備えた大浴場は、地下1500mで湧く天然の温泉。琥珀色の含よう素−ナトリウム−塩化物強塩温泉の湯は塩分を多く含んでいるため湯冷めしにくい上に、肌にしっとりとしたうるおいを与えてくれます。

うれしいのは、「脱デジタル滞在」プログラムの場合、こちらの温泉が二日目の稽古終了後に貸切になること。フローティングポールに身を預け、露天風呂に浮かびながら視線を上げると、まるで額縁で切り取られたかのような東京の空が見えます。ふわふわとした浮遊感が心地よく、2日間に渡る稽古の緊張感や日頃のストレスが解放されていきます。

大手町温泉で疲れた身体を癒せます

 

日本の食材とフレンチの技法の融合で美味に出会う

温泉の後は、季節の食材とフレンチの技法をかけ合わせた「Nipponキュイジーヌ」がお待ちかねです。腕を振るうのは、フランス料理界で最も権威あるコンクール「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で日本人初の総合3位、魚料理部門ではトップを獲得した浜田統之料理長。

そして、Nipponキュイジーヌをより際立たせるのが、星のや東京の脱デジタル滞在でのみで提供される、Nipponキュイジーヌとお茶とのペアリング。江戸時代、上流階級の武士の間でお茶の産地や香りを見極めて当てる「闘茶」と呼ばれる遊びが盛んだったことから、ひとつひとつの料理に合わせたお茶とのペアリングが考案されたそう。使われる茶葉は、日本に約50種類以上ある単一品種から厳選したもの。茶葉を選定し、水だし、熱湯だしなどの淹れ方も変え、湯飲みにも工夫が凝らされています。料理とともにお楽しみくださいね。

Nipponキュイジーヌとお茶とのペアリングを楽しめます

 

「Nipponキュイジーヌ」のコースからいくつかご紹介します。

【石】「五つの意思」

小さな大理石の上にひと口サイズの5つの異なる料理が乗った前菜。この日は、アジのタルタル、燻製鮪のボルシチ風、水蛸のコンフィを合わせたソーセージ、伊勢えびのクリームコロッケ、栗のペーストとニシン。酸・苦・辛・塩・甘の五味をひとつずつ、5つの料理でフレンチのフルコースをイメージしています。上に乗せた料理に合わせて石の温度も調整する心遣いも。

【灯】「あん肝」

味醂やシェリー酒で3日間熟成させたあん肝に、柑橘の甘みと酸味がアクセントの金柑のソースと柚子のメレンゲを合わせたひと品。ちょうちんあんこうにちなみ、提灯の中から料理が提供されるなど、楽しい演出も遊び心をくすぐります。

【鮮】「春菊と牡蠣」

緑がとても鮮やかな春菊のコンソメスープの中には、軽く火を通した牡蠣やキノコをサーロインで巻いた具が。春菊も牡蠣も牛肉も主張しやすい素材なのに、お椀の中でしっかりと調和しており、様々な口当たりとそれぞれの味を楽しめます。

この他にもフレンチの粋を超えた全9品の料理とデザートが提供されます。良質の漁場に囲まれた日本の食文化を支えてきた魚に着目し、ひとつひとつの料理に必ず魚を使った「Nipponキュイジーヌ」。繊細で上品な美食の数々は、提供された時から食べ終わるまで、驚きと喜びにあふれた幸福な時間となりました。

 

 

心地よい眠りに誘われるスパトリートメント

スマホによる肩や首の凝り、PCによる眼精疲労や体のこわばりなど、デジタル機器に囲まれた現代人は知らず知らずの内に疲れがたまっています。そこで、お休み前には、特に頭や頭皮、首、肩を中心とした「脱デジタル滞在」プログラム独自のオイルトリートメントを行います。約90分間のトリートメントはとても気持ちがよく、いつの間にか眠りに誘われていました。

上・左下)脱デジタル滞在独自のトリートメント。
右下)お茶の間ラウンジに置かれた夜食

本格的な就寝は、畳や障子が日本旅館のやわらかさを演出する客室で。もし夜中に小腹が空いた場合は、各客室フロアに1カ所ずつある24時間自由に利用できる「お茶の間ラウンジ」で提供されている夜食や菓子をいただくこともできます。

 

試し斬り本番に向けて早朝から心を整える

2日目は、早朝の講堂での約10分間の黙想タイムから始まります。心を無にする瞑想とは異なり、「黙想」は心を整理すること。少しずつ目覚めていく大手町のビジネス街の音や徐々に明るくなっていく外の様子を耳や肌で感じながら、静かに正座をします。体を徐々に目覚めさせることで、心が落ち着き、活力が少しずつ満ちていくことがわかります。

黙想の後は、剣術の所作と深呼吸を組み入れたストレッチプログラム「めざめの朝稽古」で、眠っている身体を本格的に起こしましょう。

黙想で静かに自分と向き合い、朝稽古で本格的に体を目覚めさせます

 

9時からは、1日目の剣術の振り返りや基礎稽古の復習。そして、いよいよ北辰一刀流の試し斬り本番です。沈香(じんこう)の香木がほのかに香る講堂で、本番に向けて集中力を高めていきます。抜刀、正眼の構え、上段の構え、袈裟斬り、納刀までの一連の動きを何度も繰り返し練習し、そして模擬刀での試斬麩の試し斬りを迎えます。

基礎稽古の復習。抜刀・納刀には最後まで難儀しました

 

緊張しているのか、肩や首に変な力が入ってしまうことに気がつきますが、稽古で培った集中力や精神力を思い出しつつ、師範や局長が見守る中での本番。

関屋の試斬麩の試し斬り本番

 

塩見の試斬麩の試し斬り本番
左下)一日目の断面はガタガタ 右下)本番の断面。

 先端が少し折れてしまいましたが美しい断面となりました

 

完璧!とはいかないまでも、前日に比べると美しい断面となりました。達成感から思わず笑みもこぼれます。納刀が一度でうまくいかずにやり直してしまったのですが、師範に「たとえ失敗しても、堂々とした態度でいることが大切ですよ」との教えをいただきました。

礼をし、武士の鍛錬はここで終了です。
この後、客室でいただく朝食は、稽古や本番から解き放たれたことで一層おいしくいただけた気がします(笑)。大手町の空を眺めながらの貸切温泉での湯浴みもとても贅沢な時間でした。

和食または洋食を選べる朝食。
 右下)フローティングポールでぷかぷか浮かびながら貸切温泉につかれます

 

2日間に渡る脱デジタル滞在。体験する前は不安と楽しみが半々でしたが、終わってみれば爽快感に満ち溢れていました。剣術体験で体を鍛え、雑念を払い精神を整える。その一方で、極上の美食とスパ、そして温泉に癒される。心も体もお腹も満たされた、特別な2日間となりました。

星のや東京

「脱デジタル滞在~武士の鍛錬~」

1泊2日:1名68,000円(稽古、袴レンタル、スパトリートメント、貸切温泉、夕食、朝食込み。税・サービス料10%別、宿泊料別)

1日1組2名(最少催行人数1名)/14日前までにHPから要予約

星のや公式サイト:https://hoshinoya.com/

(取材:関屋淳子・塩見有紀子、文:塩見有紀子)

旅恋メンバーが2017年に星のや東京に体験宿泊した時の紹介記事はこちら
(データ・内容は取材当時のものです)

前編)https://www.tabikoi.com/hoshino/20/

後編)https://www.tabikoi.com/hoshino/21/

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