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 ご当地列伝 vol.6 新しい時代の幕開けの今、訪れたい風俗博物館(京都)

西本願寺があり、仏具や香の店が軒を連ねる堀川通り沿いのビルの5階にある風俗博物館。エレベーターの扉が開くと、『源氏物語』を題材に、平安時代の装束を4分の1の縮尺の人形で再現した華やかな空間が広がっており、一気に平安の雅な世界へと引き込まれます。

『源氏物語』「若菜上」より夕霧(左)と柏木

 

4分の1で再現された『源氏物語』の世界へ

風俗博物館は、江戸時代、宝永2年(1705年)から続く(株)井筒が運営するミュージアム。昭和49年、日本の風俗・衣裳を実物展示する博物館としてオープンし、その後展示内容をリニューアルしつつ、平成28年に現在の場所へと移転されました。等身大の時代装束展示も一部ありますが、中心は『源氏物語』や『平家物語』をテーマに4分の1の縮尺で表現された平安時代の服飾を目で見て、体感できます。

驚くべきことに通常の織物を単に小さな衣裳に仕立てのではなく、人形のサイズに合わせて織物の文様も4分の1のサイズにして織られた特注のもの。たいへん手が込んでいます。絹でできた手作りの衣裳を身に纏った一体一体の人形たちをじっと見つめているとその世界に入り込んで、タイムスリップしたかの気分に! 十二単のような衣裳も一枚ずつ人の手できっちりと身につけさせてあり、さらに調度品や小物など細部にわたって精密に再現されているので、その場面の様子がいきいきと伝わってきます。また、人形の頭(かしら)は人形作家・磯垣とも子さんの作品。あたたかな雰囲気で、平安時代の人々を描くにはぴったりの顔立ちです。

衣裳はもちろん、調度品や小物まで
その繊細な造りで再現されているのが見事。

一部には等身大の時代装束展示があります。奈良時代、平安時代、江戸時代、近代の装束を着た人形が並ぶ一角があり、4分の1サイズにはない迫力があります。奈良時代は衣裳も中国から取り入れたものでしたが、平安時代になる日本独自の装束が確立。十二単もこのころ誕生したそうです。明治時代になると洋装化も始まります。おおまかな流れですが、実際の装束が見られるのでよく理解できますね。

 

2019年の展示のテーマは「平安時代のスポーツ」

年毎に展示内容は替わります。2019年は平成の世が終わり、令和の時代が始まる年。そして翌年には東京オリンピックが控えています。「平安時代のスポーツ ―2020年オリンピックの寿(ことほ)ぎ―」という展示テーマは、そんな時代を反映した内容となっています。展示ごとに見ていきましょう。

 

① 蹴鞠(けまり) ―平安時代のサッカー― ~『源氏物語』「若菜上」より~

ボールを蹴るスポーツとしてサッカーに重ね合わせた蹴鞠は、数人で輪を作り、鹿革の鞠を足の甲で蹴り上げ、地に落とさないようにラリーを続けるというもの。ここで描かれているのは、柏木と女三宮の出会いという『源氏物語』「若菜上」において、とても大きな意味をもつワンシーンです。

 

②四季のかさね色目に見る平安王朝の美意識

日本独自の和様の文化が育まれた平安時代。ここでは四季の彩りを捉えて、装束の色目として表現した日本人の美意識を紹介しています。例えば、下の写真は旧暦4~5月に着用された「菖蒲かさね」。花菖蒲ではなく、サトイモ科の菖蒲の根と葉を表わしたかさね色目で、葉を上から表わすように濃い緑色から薄くなり白色に、そして根本は紅梅色で、最後は白い根を表わしています。他に「梅かさね」や「雪の下かさね」など風流なネーミングと衣の色の組み合わせの妙に、日本人の感性の豊かさを感じずにはいられません。

 

③騎射(うまゆみ) ~平安時代の和製アーチェリー・馬術~

 打毬(だきゅう) ~平安時代の和製ポロ・ホッケー~ ~『源氏物語』「蛍」より~

こちらの展示では『源氏物語』「蛍」に出てくる「騎射」と「打毬」の場面を再現しています。

「騎射」は、馬を走らせて、馬上より的を射る競技のこと。
武家の流鏑馬(やぶさめ)に似ていますね。

「打毬」とは、馬に乗って行う鞠を打つ競技で、
まさしく現代のポロ。徒歩で行う、ホッケーの
ような「毬打(まりうち)」もあったそう。

 

④女房の日常・局 ~王朝女性の身嗜(みだしな)み・黒髪~ ~伏籠(ふせご)~

⑤平安の遊び ~偏(へん)つぎ~

④と⑤の展示では、女性や子どもの日常の暮らしを垣間見ることができます。

平安時代には、長く美しい髪は女性の美の基準。

香を焚き、伏籠という竹製の籠を伏せ、
衣服をかけて香りをたきしめた。

「偏つぎ」とは、偏とつくりに分かれた
札を組み合わせて漢字を完成させる
などした女性や子どもの遊び。

 

⑥冷泉帝の即位 ―平安時代の御世がわり― ~『源氏物語』「澪標(みおつくし)」より~

冷泉帝の即位式は実際には『源氏物語』では描かれていませんが、ここでは天皇の礼服(らいふく)である「袞冕十二章(こんべんじゅうにしょう)」を着て大極殿へ向かう姿が描かれています。この衣裳は江戸時代最後の天皇、孝明天皇の時代まで受け継がれ、明治以降は日本風に改められたそうです。来たる5月1日の新天皇陛下の御即位の時にはどんな衣裳を身につけていらっしゃるのか注目ですね。

袞冕十二章を着た冷泉帝。

 

まずは、緻密に再現された平安時代の世界に引き込まれ、さらに当時の装束や暮らしを知ることができる風俗博物館。また『源氏物語』が好きな方にもぴったりです。

こうして平安時代の人々の営みを見てみると、千年という時を隔てていてもスポーツを楽しんだり、おしゃれをしたり、恋をしたりと現代の人々と変わらないのではと思えてきます。
新しい時代が始まる今、日本人の歩んできた歴史を振り返ってみるのもいいかもしれませんね。次の京都旅行の折にぜひお立ち寄りください!

 

風俗博物館

◆京都市下京区堀川通新花屋町下る(井筒左女牛ビル5階) 
◆開館時間 10:00~17:00 
◆休館日 日曜・祝日、お盆(8月13日~17日)、展示替期間(6月1日~7月31日、12月1日~2月3日) 
◆入館料 大人500円、大・高・中学生300円、小学生200円

 

 

 

(取材・文 山本 厚子)