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 列車で行く Vol.26 山形・肘折温泉で“プチ湯治”。特別なことは何もしないが贅沢な休…


旅に出ると、せっかく遠くまで来たのだから、あれもこれもと予定を詰め込みがち(貧乏性の私は、まさにこのタイプ!)。旅の日程から「あれもこれも」をそぎ落とし、温泉に入る、お部屋でゆっくり休憩する、ちょっと街をぶらぶらしてから、また温泉に入る。そんな「温泉」がメインの2泊3日、ゆるゆる”プチ湯治”で日頃の疲れをリセットする旅はいかがでしょう。

 

肘折温泉でプチ湯治を

「派手な商業施設のない、ひなびた風情の温泉街。いい湯でのんびり過ごしたい!」
このお題にぴったりなのが、山形県の肘折温泉。
肘折温泉がある大蔵村は、山形県のほぼ中央に位置し、その南方には霊峰・月山がそびえています。村の約85%が山林ですが、山間の台地では農業や酪農が盛んに行われており、「日本で最も美しい村」連合への加盟が許される、日本の原風景といえる風景が広がっています。今年の2月23日に積雪量が観測史上最高の4m45cmを記録し、全国ニュースでも取り上げられたことをご記憶の方もいらっしゃるかも。そんな豪雪地帯でもある山間の村で、1200年以上前からこんこんと湧き続けているのが肘折温泉なのです。
最寄り駅は山形新幹線の終着駅である新庄駅。時間によっては、新庄駅のプラットホームに仲良く山形新幹線が肩を並べているのを真正面から見ることができます(にわか撮り鉄の血が騒ぎます!)。そこから村営バスに乗り換え、およそ1時間で温泉街へ。途中、バスの車窓から月山の山容やそば畑など、変化に富んだ風景が楽しめ、あっと言う間の1時間です。


出羽三山の主峰・月山の麓でこんこんと湧く湯

肘折の温泉街は銅山川沿いに広がっており、20軒ほどの温泉旅館が軒を連ねています。
かつては信仰の山である出羽三山の主峰・月山登拝の拠点としても栄えました。月山神が卯年である547年に姿を現した、という伝説が残ることから、江戸時代の卯年御縁年には、2週間で1万2000人もの行者が肘折温泉から月山登拝へ出発したそう。古くから出羽三山詣でを、「西の伊勢参り」に対し「東の奥参り」というそうですが、昔の人の信仰への並々ならぬ思いが感じられます。
肘折温泉は、登拝の拠点であると同時に、湯治場でもありました。銅山川のほとりで自噴する源泉は、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。切り傷や火傷、リュウマチ、神経痛、胃腸病など効能はさまざま。古い角質を洗い流してくれる効果があることから、「美肌の湯」とも呼ばれています。温泉街のなかほどにある素朴な造りの共同浴場「上の湯」のほか、食事処や休憩所を併設する「肘折いでゆ館」「カルデラ温泉館」といった日帰り温泉施設もあります。
「カルデラ温泉館」は温泉街から歩いて20〜30分ほどのところにあり、山小屋風の造り。男女別の内湯と、時間で男女が入れ替わる露天風呂があります。湯船には黄金温泉と呼ばれる源泉からたっぷりかけ流されています。

男女別の内湯への入り口の前には飲泉所が。こちらは浴場の黄金温泉とはまた異なる、冷たい炭酸泉。炭酸の効果で胃腸や肝臓など内臓の動きが活性化され、神経や筋肉の興奮を鎮める効果があるそう。ただ一方で、お腹がゆるくなることもあるので、飲用はほどほどにしたいところです。
宿で温泉を満喫し、日帰り温泉施設も巡る。のんびり温泉三昧を楽しみましょう。


温泉街をぶらぶらしよう
湯浴みの合間に、温泉街をぶらぶらおさんぽ。

肘折温泉の温泉街は実に魅力的。メインストリートは車一台分ぐらいの広さの通りの両側に、宿や土産物店、食事処などが軒を連ねています。その中心部に立っているのが、昭和12年に建てられた木造二階建ての旧肘折郵便局舎。平成7年にその役目を終えたあとも、湯の町の顔として保存されています。赤い切妻屋根の局舎を正面から見ると、窓の格子がすべて郵便の「〒」マークに!窓越しになかをのぞくと、受付カウンターなどがそのまま残されています。イベント時には開館しますが、それ以外は外観のみの見学です。

さて、この旧肘折郵便局舎のある通りでは、もうひとつの肘折名物・朝市が、4月下旬から11月下旬の毎早朝(5月〜8月は5時30分〜7時30分、それ以外の時期は6時開始)開かれます。売り子は地元朝市組合のお母さんたち。朝6時30分過ぎ、宿の下駄をつっかけて朝市会場へ出向くと、小雨というあいにくの天気ながら、すでに多くの湯客が。お母さんたちの前には、野菜や旬の栗、おこわ、漬物などなど、いろいろと並んでいました。肘折温泉には、自炊できる湯治宿がまだまだ健在。食材やおかずをここで調達、もおすすめです。
 


この絶景!行かないともったいない!

「地蔵倉」と呼ばれるパワースポットがあると聞き、気軽な気持ちで歩きはじめたのですが。
そもそもこの地蔵倉は、肘折温泉の開湯伝説ゆかりの地で、お地蔵様の導きで源泉を発見したお坊さんが修行をしていたと伝わる場所。共同浴場・上の湯のそば、石段をのぼったところに佇む薬師神社の裏手から地蔵倉へ続く遊歩道がはじまります。杉林のなかの細い道は山歩き感をそこなわない程度に整備されています。ところどころに地蔵倉を示す道標があるので、道に迷うことはありません。途中、散策路が途切れ、肘折温泉街へ続く県道57号、そしてすぐ現れる国道458号をしばし歩くと、道の傍らに地蔵倉の道標がふたたび登場。ここからまた山歩きの再開です。

この地蔵倉への道・後半戦がなかなかハード!しばし木々に囲まれた上り道を気持ちよくあるいていたのですが、突如それが一変。絶壁に沿って続く道に。足元を見ると心臓がきゅっとなるような高さですが、そのかわり、眺めは最高!スタート地点だった肘折温泉街が遠くに小さく見え、箱庭のようです。お坊さんはこの山道から転げ落ち、肘を折ったことが肘折温泉の名前の由来…。そうならないよう柵につかまりながらゆっくり進み、最後に急な階段を上ると、白っぽい岩壁にへばりつくように小さなお堂が建っているのがみえてきます。ここは安産・商売繁盛・縁結びのパワースポット。岩肌に無数にあいた孔にこよりを結ぶと願いがかなうといわれています。ここまでのんびり歩いておよそ40分。私は地蔵倉にさんさんと日が当たる午後に歩きましたが、早朝の時間帯がおすすめだそう。お堂のまわりだけ、なぜかカメムシが大量発生しているので、ご注意を。

カメムシが大量発生した年の冬は大雪になる、、、という言い伝えがあるそうです。
さて、この冬はどうなるでしょうか。紅葉の秋、そして、しんしんと雪が降り積もる冬。肘折温泉でおこもり旅をしませんか?

肘折温泉について詳しくはhttp://hijiori.jp

(文・写真 川崎 久子)