静岡 由比・蒲原(前編)/ 春の天日干し、秋の釜揚げ、 日本でここだけ駿河湾の宝石「桜えび」、地元の味に会いに行こう

美しい桜色、小さくスレンダーな腰の美しいライン、春と秋の年に2回、一定の期間のみ漁が行われる桜えび。詳細な習性が明らかになっておらず、資源保護の観点などから春と秋の漁期が設けられているようです。
干してよし、茹でてよし、そして生もよし、まるごと命を頂けるホールフードな桜えびがどのようにして漁獲され、私たちの口に届くのか、静岡県・由比と蒲原へ春漁と秋漁の取材に行ってきました。
まずは春漁、18時半過ぎ、いざ出港。

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日中おもに200m〜300mの深海にいる桜えびは、日が沈むころエサとなるプランクトンを求め水深20〜50mほ どのところに群れを作って上昇してきます。からだの小さな桜えび、外敵から身を守るため暗くなる夜間にエサを食べるという習性だそうです。
漁は、桜えびの上昇タイミングを目指して行われ、その日の天候なども鑑みながら、漁場を探します。 また桜えび漁は、通称「網船」と呼ばれる網を積んでいる船と、「エビ船」と呼ばれる桜えびのカゴを積んで港に水揚げをする船があり、それぞれの役割分担をした2艘の船が1組となり、お互い接近しながら網を引き上げる方式をとっているのも特徴で、風や波の動きを見定め、船の動きを合わせながら水揚げが行われます。その景色をすこし離れた所から見ていると海上のフォークダンスのようですが、間近で見るとその印象が一瞬でかき消され、揺れる波間で船と船との距離を縮めながら網が引き上げられるその緊張の時間は息をするのを忘れしまいそうになるほどです。
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今回桜えび漁の船に乗せていただいたマルミ明神丸の實石正則さん
鮮度が命の桜えび、網が引き上げられた漁船は由比漁港へ戻り、時間との勝負な中、各漁船名が入ったカゴ に次から次へと水揚げされていきます。写真は漁船・朝日丸さんの桜えび。
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水揚げの翌日、空が朝焼けで明るくなり始めた頃からはじまる由比漁港での入札。仲買さんの皆さま、思い 思いに検討されているその時間は、漁港とは思えない静かさです。
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昔から「梅雨の雨が落ちてくると産卵を始める」と言われている桜えびゆえ、春漁は産卵前の3月下旬〜6月上旬に行われます。春漁の時期は、産卵前のたっぷり栄養と旨みを蓄え、成熟した桜えびが取れ、また湿度もそれほど高くなっていない春の気候は天日干しに絶好のシーズン。桜えびの生態と静岡・駿河湾の季節とが、出会うべくして出会ったマリアージュで作り出される天日干しの桜えびは唯一無二のご馳走というほかにことばが浮かびません。天日干しされた桜えびを鼻に近づけると甘い香りがふわっと届き、ごくりと喉が鳴り、香りだけで酒を一献啜れそうな風味です。
また生で食べてももちろん抜群! 成熟した桜えびなので食べごたえがあり、生の桜えびを温かいごはんの上 にどーんと盛付け、生姜と青ねぎ、すこしの醤油を垂らせば、至福の丼の出来上りです。
「ふるい」または「めんとおし」と呼ばれる目の大きなカゴを使って、桜えび一つ一つがむらなく天日干しされるようシートの上に丁寧にまいていきます。天候に恵まれれば、青い空と桜色のじゅうたん、その合間に絶景の富士山が望めます。また桜えびの乾燥加減を見定め、引き上げるタイミングも熟練の技ならでは。
(株式会社ヤママルの干し場より)
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一方、陽もぐっと短くなり始める10月下旬から12月下旬に行われる秋漁は、天候などを鑑みながら春漁よりも3時間ほど早い15〜16時頃が出港時間の目安です。春の時期とは異なり、秋雨や風の強いことなどもあり、桜えび漁にとってむずかしい気候と対峙しながら毎日の出漁有無を決定されているそうです。
秋漁では梅雨の時期から夏にかけて産卵された卵から生まれた子供の桜えびを中心に、大人の桜えびや産卵 時期が遅れていて抱卵している桜えびなどが混ざるのが特徴で、地元の方によると、総じて小ぶりのものが多いため、天日干しよりふっくらと炊き上げる釜揚げ桜えびがおすすめとのこと、納得です。 
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写真左から大人・子供・抱卵している大人の桜えび
桜えびの産地である由比や蒲原では、あちらこちらに美味しい桜えび料理をいただけるお店がありますが、 中でも創業60年と歴史が古く、現在2代目となる女将さん吉川千鶴子さんが切り盛りする、蒲原のよし川にて桜えび料理をご紹介いただきました。
桜えびがすき間なくたっぷりつまったかき揚、生・釜揚げ・佃煮の桜えび3種、ご飯、汁物、香の物、甘味 がついた桜えびづくし定食(2000円)。生や釜揚げはやや甘めの醤油をすこしたらしていただくのが地元流。

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また由比漁港に併設されている浜のかきあげやでも、漁港ならではの港メシがいただけます。中でも注目したいのは、由比漁協青年部が未利用魚の活用として取り組む2つのメニュー。桜えび漁期だけの限定、センハダカのかき揚げ(200円)は絶品。センハダカとは深海魚で、桜えびと同じく夜になると水深の浅いところに上がってくるという習性があり、桜えび漁の網に混ざって水揚げされるそうで、由比蒲原ならではの地元魚もぜひとも食べておきたいご馳走です。また、由比沖の定置網にかかった魚を、漁師さんが考案したレシピで自ら漁の合間に手作りしている漁師魂(りょうしだま)の素揚げ(200円)も外せません。そのネー ミングとともに忘れられない味でした。春はオープンエア、秋はストーブもあり、海を感じながらいただける食堂です。
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日本でここだけ、駿河湾の桜えび。鮮度が命の生の桜えびはぜひとも由比・蒲原で食したい季節のご馳走。 JR由比駅からほど近い由比漁港の浜のかきあげやで桜えび料理をつまみつつ豊漁を祈り出漁を見送るのもよし、天日干し場へ足を運び素干しされた桜えびのあまい香りを感じ、富士山が見下ろす桜えびの絨毯を眺め 眼福をむさぼるのもよし。桜えびが生息する海と風、桜えびと生きてきた地元の方々とふれあいながらいただく桜えびはオンリーワンの味、現地の桜えび加工業者さんの個性豊かな桜えびの食べ比べも足を運んでこその楽しみです。

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今回桜えびの漁について教えてくださった
第二大政丸の原正英さんと朝日丸の望月友貴さん
江戸の頃より知られていた桜えびは、明治時代になり由比・蒲原で本格的に漁が始まったようです。由比・ 蒲原は、江戸時代に整備された東海道の宿場町でもあり、この二つの街には、桜えびだけではもったいない 訪れたい景色やご馳走がたくさんです。後編では由比・蒲原の街歩き編をご紹介いたします。どうぞお楽しみに。
<由比・蒲原へのアクセス>
・JR東海道新幹線三島駅または静岡駅より、東海道本線に乗り換え由比駅または蒲原駅へ
・JR東海道新幹線新富士駅からタクシーで由比駅または蒲原駅へ
Google map
天日干しの場所
<主な取材ご協力先> 
静岡市清水区由比今宿字浜1127
由比漁港内

静岡市清水区蒲原3丁目5-18/054-385-2524
桜えび漁や桜えび料理などについて、日々情報を発信しているFacebookページも必見です。
静岡市清水区蒲原小金184-1/054-388-2880 
桜えび情報を教えて頂いた株式会社ヤママルは、桜えびの加工業者では2社のみ承認されている静岡県ミニ HACCPという衛生管理の基準をクリアした桜えび素干しを製造している製造・販売会社。素干しのほか、殺菌効果のある海洋深層水で洗浄している生桜えびや釜揚げも店頭で購入可能です。
・​由比と蒲原の皆様
 (文:奥田ここ)

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