マイスターと世界遺産の知の旅へ by 山本厚子

世界遺産への旅Vol.1 アブ・シンベル神殿(エジプト)

「世界遺産への旅」第1弾はエジプトからです。

アブシンベル1

悠久の歴史を刻んだ神殿に、今なおファラオの威厳が満ちる

真っ青な空に、照りつける強い日差し。巨大な岩山と、海と見間違うかのように広がるナセル湖。そして、岩山の正面に回ると、突如として現れるアブ・シンベル神殿。岩山を削って造られた高さ22mもあるラムセス2世の4体の像が威圧するように見下ろしています。

アブシンベル2

ナイル川沿いの町・アスワンから南に約280kmに位置するアブ・シンベル。この地にある神殿は、新王国時代第19王朝のファラオで、「建築王」と呼ばれたラムセス2世により紀元前1260年ごろ、造営されたもの。長い歳月の中で、砂に埋もれ、人々に忘れられていましたが、1813年スイス人のヨハン・ルートヴィヒ・ブルクハルトによって発見されました。

ラムセス2世像の足元にある入口から入ると、内部の壁には、ヒエログリフやラムセス2世がカデシュの戦いで活躍する様子を描いたレリーフなどが見られるほか、高さ10mもあるラムセス2世像が左右4体ずつ並ぶ大列柱室、そして最深部には、太陽神ラー・ホラクティ、国家神アメン・ラー、メンフィスの守護神プタハの像に混じって、神格化されたラムセス2世像が置かれた至聖所などがあります。ラムセス2世は、強大な権力をもち、自己顕示欲もかなり強かったように思えます。

何よりも驚くのは、年2回(2月22日と10月22日)だけ、奥行き約63mの位置にある至聖所の神像に、朝日が真っ直ぐに差し込むようにと神殿が設計されていることです。3000年以上も前の建造物ながら、その高い技術力に圧倒されます。(闇に棲む冥界の神でもあるプタハ神にだけは日が当たらないようになっているというのも芸が細かい!)

アブシンベル3

アブ・シンベル神殿から北に120m離れた場所には、ラムセス2世の最愛の王妃ネフェルタリのために築かれたアブ・シンベル小神殿があります。こちらの神殿は、愛と美の神ハトホル神が祀られていて、神殿の正面にはネフェルタリの像2体とその彼女の像を挟むようにラムセス2世の像4体が彫られています。

アブシンベル4

アブ・シンベル神殿、アブ・シンベル小神殿をはじめ、フィラエ島のイシス神殿などアスワンからアブ・シンベルの間に点在する遺跡を含め、1979年、「アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」としてユネスコの世界文化遺産に登録されました。ちなみにヌビアとは、ナイル川上流の地方をさす言葉。ヌビア地方は金などの鉱物の産地かつ、アフリカ奥地との貿易の中継地であったため、エジプトの王たちもこの地方を制圧しようとたびたび出兵しました。ラムセス2世の時代にはヌビア地方はエジプトの支配下にあり、そのためこのような巨大な神殿が造られたのですね。

ヌビア遺跡が導いた「世界遺産」の誕生

今回、「世界遺産への旅」というテーマで、最初にアブ・シンベル神殿を取り上げたのには、理由があります。

世界遺産とは、ユネスコ(UNESCO:国際連合教育科学文化機関)によって1972年採択された世界遺産条約に基づき、人類共通の普遍的な価値をもつ遺産を保護し、未来にわったて受け継いでいこうというものですが、このユネスコの世界遺産保護の動きに大きな道筋をつけたのが、アブ・シンベル神殿だったのです。

1960年、エジプトではアスワン・ハイ・ダムの建設計画が持ち上がり、この巨大ダムによって、遺跡や文化財が多数残るヌビア地方は水没してしまうという問題が起こりました。このとき、ユネスコは世界各国に向けて、ヌビア遺跡の救済を呼びかけました。その結果、1963年から救済事業がスタートし、アブ・シンベル神殿は元の位置より、西に110km、64m高い場所に移築されることに。1つ20〜30トンのブロック、およそ1万6000個に切断されて、クレーンで運ばれ、当時の最新技術により元通りに復元されたのです。現在、私たちがヌビア遺跡を見ることができるのは、国際的な救済事業のおかげといえます。このヌビア遺跡の救済を機に「人類共通の遺産」という認識が生まれ、後に世界遺産の概念へと発展していったのでした。

ピラミッド

日本からエジプトを訪問するツアーの場合、一般的なのは8日間コース。カイロ、ルクソール、アスワン、アブ・シンベルと4都市を周遊し、エジプトにある7つの世界遺産のうち、4つを巡ることができます。しかし、移動の多いスケジュールになりますので、休暇日数や体力と相談して10日間や12日間なども含め、各社ツアーをよく比較してみてください。ナイル川をクルーズしながら各都市を観光するツアーや、ナイルエクスプレスという寝台列車を利用して移動するツアー、アブ・シンベルで1泊して、遺跡で音と光のショーや朝日を見るツアー、エジプト第2の都市アレキサンドリアまで足をのばすツアーなど、ツアーによって見どころも多彩です。

■エジプト・1979年登録・文化遺産
■アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群
(Nubian
Monuments from Abu Simbel to Philae)

 

(取材・執筆 山本 厚子)

 

 

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