ひとり旅にアート心も入れて by 塩見有紀子

戦国絵巻が繰り広げられる、福島県南相馬市の『相馬野馬追』

『相馬野馬追(そうまのまおい)』という祭りはご存じでしょうか?
福島県南相馬市で毎年7月末の土・日・月曜日に行われる、一千有余年もの伝統を有する国の重要無形民俗文化財の祭りです。甲冑に身を包んだ500余騎の騎馬武者が太刀や旗指物をつけ、華麗で勇壮な戦国絵巻を繰り広げます。2011年の東日本大震災発生の年も、規模を大幅に縮小しながらも伝統を絶やすことなく開催されました。今年は7月25日(土)・26日(日)・27日(月)に行われます。

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野馬追の起源は、相馬家の祖と伝わる、平小次郎将門(たいらのこじろうまさかど)が、相馬御厨の官職にあった頃、新しい軍事力として馬の活用を考え、現在の千葉県北西部の下総国の牧に野生馬を放牧。そして、敵兵に見立てた野馬を一定の場所へ追い込み捕らえる軍事訓練をしたことが始まりといわれます。その後、元亨3年(1323)、相馬氏は奥州行方郡(現・南相馬市)に移りましたが、隣りには禄高10倍にもなる伊達氏がありました。領地を守る必要があったため、野馬追は武士道精神の鍛錬と武術の訓練をはかる場にもなったそうです。

「相馬野馬追」の初日(2015年は7月25日)には、出陣・総大将お迎え・宵乗りが行われます。「総大将お迎え」では、陣やで副大将や侍大将などの武者や螺役が整列し総大将を厳粛に迎え、一同揃って野馬追のメイン会場である雲雀ヶ原祭場へ進軍します。その後、騎馬武者達が一周1000mを疾走する「宵乗り」が行われます。

20150515-2総大将出陣.JPG総大将出陣(写真:相馬野馬追執行委員会提供)

2日目(2015年は7月26日)は本祭り。全国から多くの観客が集まります。総勢五百騎余りが、号砲の花火を合図に約3km先のご本陣・雲雀ヶ原祭場へ向かいます。威風堂々とした豪華絢爛な騎馬武者行列は圧巻。祭場へ通じる南相馬市内の道路は封鎖され、この日限りはお馬様優先。観客は道路の横断さえできません。その道を鎧兜、甲冑に身を包んだ騎馬武者達が堂々と進んでいきます。

20150515-3お行列.JPGお行列(写真:相馬野馬追執行委員会提供)

20150515-12.JPGメイン会場の雲雀ヶ原祭場地へと入ってくるお行列

12時頃からは「甲冑競馬」がスタート。兜を脱ぎ、白鉢巻をしめる若武者が旗指物をなびかせ、人馬一体となって風を切って全力疾走します。

私は2014年に初めて相馬野馬追観覧へプライベートで行ってきました。初観戦で様子がわからないこともあり、福島観光とセットになった東京発着の団体旅行ツアーバスで参加しました。ほとんどの団体ツアーは、甲冑競馬からの観覧となっています。

初めて見た、勇猛果敢な甲冑競馬には圧倒されます。まさに戦国時代が目の前で繰り広げられているかのような迫力!
そして、とてもおもしろいのが、場内アナウンス。騎馬会の方がアナウンスを行っているのですが、一周1000mで1レース10騎以下で争われる甲冑競馬ですが、出走者数は事前に決まっていないようで、「次、何騎か報告せよ!」「えー、次は7騎、...あっ、訂正します!6騎です!!」「次はどの武者が走る?...あっ」と思ったら、すでに出走していたなんてことも。そしてこのアナウンスが場内の観客にもつつぬけ。福島弁のやり取りがおもしろくてたまりません。観客席から何度も笑いが起きます。
ですが、甲冑競馬そのものは真剣。甲冑を身にまとい、旗指物を背中ではためかせ、激しい息遣いや馬のひづめの音とともに、砂埃をあげながら次々と騎馬武者が全速力で目の前を駆け抜けていきます! 競争が繰り広げられる度に観客席からどよめきが起きます。

甲冑競馬(上写真:相馬野馬追執行委員会提供)

20150515-4甲冑競馬.jpg20150515-5IMGP8793.JPG20150515-6IMGP8762.JPG

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次に行われるのは「神旗争奪戦(しんきそうだつせん)」です。山頂のご本陣から戦闘開始の陣螺が鳴ると、騎馬部者達が雲雀ヶ原一面に広がります。そして、天高く打ち上げられてヒラヒラと舞い落ちる二本の御神旗を目指し、馬上の武者達が駆け出し、神旗を奪い合います。その姿は戦国時代の戦いそのもの。

20150515-8神旗争奪戦.jpg神旗争奪戦(写真:相馬野馬追執行委員会提供)

ただ、昨年は強風が敵でした。打ち上がる神旗の半分以上が場外へ流れてしまい、騎馬武者達が待つ場内へ落ちてこず、騎馬武者は右往左往するばかり。そこでまた軍の司令部でもある、騎馬会のアナウンスが流れます。「花火衆!もっと頭を使って旗を上げんか〜!」「何やってるんだ!」「花火衆に次の策はあるのか!?」なんていうアナウンスも流れてしまうほど。観客席は爆笑で大盛り上がりです。

強風が吹きすさぶ中、御神旗をとれた騎馬武者は誇らしげに旗をかかげながら、本陣山の羊腸(ようちょう)の急坂を馬で一気に駆け上ります。ジグザクに馬で上っていく、急坂上りも迫力があります。
刀でのやりとりこそありませんが、打ち
上げられる花火二十発・御神旗四十本を数百の騎馬武者達が争う姿を観客は真剣に見たり、おもしろがったり、女性騎手が旗をとることもあり、祭りは最高潮の盛り上がり!

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最終日(2015年は7月27日)に行われる「野馬懸(のまかけ)」は、騎馬武者数十騎が相馬小高神社に境内に設けた竹矢来に騾馬を追い込み、御小人とよばれる白装束の者が荒駒を素手で捕らえて神前に奉納する行事です。昔の名残を留めている唯一の神事。野馬懸行事で三日間に渡って行われる伝統の相馬野馬追は幕を閉じます。

20150515-11野馬懸.jpg野馬懸(写真:相馬野馬追執行委員会提供)

祭り会場へのアクセスは、仙台駅や福島駅から最寄り駅のJR常磐線原ノ町駅まで高速バスが発着しています。原ノ町駅から会場の雲雀ヶ原祭場地まではシャトルバス(9〜15時運行予定)が運行されています。

団体ツアーならアクセスも簡単ですし、団体用観覧席も用意されているので気軽に参加できます。ですが、帰路の渋滞を避けるために集合時間が早く、神旗争奪戦の途中で集合時間を迎えてしまうことも。できれば、個人で観覧することをおすすめします。
ただし、甲冑競馬の走路に近い席は早朝から場所取りされている方も多く、ベストポジションは望めません。相馬野馬追執行委員会では、6月中旬に有料の撮影許可証を発売します。200本限定ですが、馬場内で甲冑競馬を間近で見られ、神旗争奪戦は馬場のすぐ外の走路から見られます。迫力あるシーンを見たい・撮りたい方は有料の撮影許可証を事前購入しましょう。

20150515-13.JPG観客席
(日陰がない場所ですので、くれぐれも暑さ対策は万全に)

団体ツアーで甲冑競馬と神旗争奪戦を見られましたが、20150515-14.JPGやはり近くに宿泊して、3日間まるごと相馬野馬追を体感してみたいと思うほど、興奮の連続の祭りでした。3日間全日程観覧は無理でも、本祭りの日の朝9時半から始まる「お行列」からは見てみたいところ。今年はぜひ皆さんも観覧しに行きましょう!

【相馬野馬追執行委員会】
http://soma-nomaoi.jp/index.htm
2015年は7月25日(土)・26(日)・27(月)開催
自由席当日券高校生以上1名1000円(7月26日観覧料金)

(文:塩見有紀子)

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