ひとり旅にアート心も入れて by 塩見有紀子

「ジブリの立体建造物展」開催中の江戸東京たてもの園で貴重な建物見学を

東京都小金井市の小金井公園内にある『江戸東京たてもの園』は、現地保存が難しくなった文化的、歴史的に価値の高い建物を移築復元して一般公開している野外博物館です。おもしろいのが、そのほとんどの建物の館内に自由に入って見学できたり、写真を撮れたり、またカフェとして食事ができたりする建物があるところ。ただ外観を眺めるだけでなく、中に入ることによって建築家の意図や住んでいた方の息遣いを感じることができるのです。

20141117tatemono01.JPG                 外観は洋風だが、2階は和風の造り(左)・戦前の乾物屋を再現(右)

7ヘクタールもの広大な敷地には江戸時代から昭和初期までの建物が30棟復元されており、下町情緒を感じるレトロな町並みはまるでスタジオジブリの世界のよう。それもそのはず。宮崎駿監督は江戸東京たてもの園や小金井市近辺の風景にヒントを得て作品を作ることも多いそうです。

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              昭和初期に建てられた荒物屋「丸二商店」は店内も昭和10年代の様子を再現

施設内はいくつかのゾーンに分かれており、「東ゾーン」には、大正12年(1923年)の関東大震災以降の下町の情景が広がっています。醤油屋、荒物屋、乾物屋などが並ぶ町並みは『千と千尋の神隠し』のような懐かしさに誘われます。なかでも、昭和の銭湯を再現した昭和4年建築の「子宝湯」は当時としては贅を尽くした造り。神社仏閣を思わせる唐破風や七福神の彫刻、高い天井、富士山が描かれた絵など、こんなに立派な銭湯があったとは驚きです! そして、子宝湯のお隣りには居酒屋が。震災や戦災をまぬがれた、台東区下谷にあった居酒屋を復元したもので、店内には「ゆどうふ
八○」「ところてん五○」と料金が書かれたメニュー板が架かっており、おつまみと共に威勢のいい店主が今にも出てきそうな雰囲気があります。

20141117tatemono03.JPG                         懐かしさを感じる人も多そうな子宝湯

また、文具店「武居三省堂」は『千と千尋の神隠し』に出てくる釜爺の仕事部屋のヒントになっているとか。どんな点でヒントを得たのか、ぜひ訪れてみてくださいね。

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      中央の建物が「武居三省堂」。左は手打ちうどんや日替わり弁当を食べられる食べ物処「蔵」

一方、「西ゾーン」には様々な住宅が展示されています。注目は、ル・コルビジェの弟子でもあった建築家の「前川國男邸」。物資の少ない戦時中の昭和17年に品川区上大崎に建てられた住宅にもかかわらず、とてもモダン。正面の大きな柱、吹き抜けの居間、格子のようなデザインの大きな窓、ロフトのようなスペース、飾り棚、リビングの様子が見られる小窓のあるキッチンなど、当時としてはかなり画期的なデザインだったことでしょう。

20141117tatemono05.JPG                             「前川國男邸」の吹き抜けの居間

他にも、今でも住みたいと思わせるほど魅力的な大正14年築の「大川邸」や、二・二六事件の現場であり、高橋是清が青年将校達に暗殺された現場でもある「高橋是清邸」などもあります。赤い屋根が特徴の明治43年頃に建てられた洋館「デ・ラランデ邸」では、邸内やテラスで食事や喫茶を楽しむことができます。

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                  「デ・ラランデ邸」ではカレーやケーキなどを食べられる

茅葺き屋根の民家、洋館、和風の邸宅、商家など、様々な建物が点在するので、"住むならこの家" "別荘ならここ" "うたた寝するならこの場所"などと想像しながら歩くと、とても楽しくなります。

 

そして、現在、江戸東京たてもの園では「ジブリの立体建造物展」が開催中です。『風の谷のナウシカ』から、今夏公開された『思い出のマーニー』など、スタジオジブリ作品でおなじみの印象的な建物が登場する背景画やミニチュア、制作資料など約400点が展示されています。そして、作品解説は藤森照信氏。藤森氏といえば、藤森氏の出生地・長野県茅野市にある、まるで空を飛んでいるような茶室「高過庵(たかすぎあん)」や大分県竹田市にある「ラムネ温泉館」など一風変わった建築物で知られる建築家・建築史家。藤森氏の着眼点による解説もわかりやすく、「なるほど!
そんな見方があったのか!」と新たな発見が多くて興味深いのです。20141120tatemono08.jpg
                                  (C)Studio Ghibli

数々の作品群の中でも目玉のひとつは『アルプスの少女ハイジ』のジオラマ。山の上に立つおじいさんとハイジの家はもちろんのこと、ペーターや羊たち、麓の街並みや列車が忠実に再現されています。床に置かれている台に乗って、少し高い位置からジオラマを見下ろすと、まるで自分がハイジの世界に飛び込んだような気持ちにきっとなれるはずです。ワクワクしますよ!

また、『千と千尋の神隠し』の湯屋「油屋」を再現した、約3メートルの模型もあります。最初に見た時にはその大きさに驚きますが、実はとっても細かいところまで再現されている模型なのです。制作スタッフが映画を何度も何度も繰り返し見て、この巨大な模型を作り上げたものだとか。油屋の裏側を含めてぐるりと一周見ることができる上に、旗やのれんが風になびく様子、障子の影が動く様子など、とてもリアルに模型として造られており、見れば見るほど新たな発見があるのです。

ほかにも、緑がとても美しく描かれた『思い出のマーニー』の背景画や、洋館と日本家屋が合わさった『となりのトトロ』の草壁家の模型、『天空の城ラピュタ』の炭坑町のジオラマ、数々の作品のイメージボードなども展示されており、次から次へとジブリの世界が広がっています。ジブリ好きにはたまらなく、きっとまた映画を見返したくなりますよ。

最後のお楽しみはミュージアムショップ。ジブリ作品のジグソーパズル、マックロクロスケの紙風船、ペーパークラフトなど、楽しいグッズがいっぱい揃っています。以前、『三鷹の森ジブリ美術館』へ行った際もグッズを大量に購入したのですが、今回また、私の大好きな『紅の豚』や『となりのトトロ』のクリアファイルなどいろいろ購入してしまいました。

そしてうれしいお知らせが飛び込んできました! 好評につき、「ジブリの立体建造物展」が2015315日まで会期延長となりました。これに伴い、1216日から『となりのトトロ』や『平成狸合戦ぽんぽこ』などの展示物が増えたり、今までなかった『となりの山田くん』の作品も追加されるそうです。同じく1216日から音声ガイドも用意されるので、より展示作品を深く理解できるようになるはずです。一度訪れた人も、思わずまた行ってみたくなりますね。

皆さんもぜひジブリの世界と、ジブリ作品に影響を与えたという数々の名建築に会いにいってみて下さいね。

 

<江戸東京たてもの園>

開園時間:10月〜3月は93016304月〜9月は9301730
休園日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
観覧料:一般400円、大学生・高校生・都外中学生200円ほか
http://www.tatemonoen.jp/

企画展「ジブリの立体建造物展」開催中
2015
年3月15日(日)まで会期延長!

                                                           (取材・文:塩見有紀子)

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