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街歩き 記事
 列車で行くVol.6 北陸・金沢の冬
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金沢と聞いて思い浮かべるのはなんでしょう?
「加賀百万石」「城下町」「前田利家」「金箔」「ゴーゴーカレー」?
ひとそれぞれあると思いますが、私にとってはなんと言っても
「文学の町」、です。

金沢ゆかりの文豪で、まず名前が挙がってくるのが
泉鏡花・徳田秋聲・室生犀星のお三方。
「金沢の三文豪」と呼ばれ、それぞれの生家跡地やその近くに
文学記念館が建っているほど有名です。

明治から昭和初期にかけて活躍した彼らの作品はちょっと馴染みが薄い...
という方(私もですが...)には、四高(しこう/旧制高等学校)に通っていた
井上靖はどうでしょう。

四高の校舎は、「石川四高記念文化交流館」として今も健在。
レンガ造りの堂々たる建物の中は、四高の学生生活を紹介する「石川四高記念館」と
石川県ゆかりの作家の資料を展示する「石川近代文学館」に分かれています。
金沢文学街歩きに出かける前に立ち寄りたいスポット。
特に金沢市ゆかりの作家のコーナーをじっくり見学しておさらいしたいところです。

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井上靖は学生時代を描いた自伝的小説『北の海』で、金沢での生活が生き生きと
ユーモアも交えて描いています。
例えば、一大観光スポットの「兼六園」は『北の海』の登場人物たちにとっては
試験に落第した学生が行く場所として登場。

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今でこそ、有料で開園時館も決まっていますが、1976年ごろまでは
入園無料で24時間自由に入れるようになっていたのだそう。
現在の観光名所のポジションよりも、
もっと身近な存在だったのではないかと思います。
冬の今の時季は、松の木に雪吊りが施され、雪で真っ白に染め上げられた園内は、
えも言われぬ美しさ。
展望台からは、水墨画のような金沢市街地を一望できます。
この風景を目の当たりにしたら、
落第に負けない明日への希望が湧いてきそうです。


三島由紀夫の小説にも金沢が登場するものがあります。
その名も『美しい星』。
ある日突然自分たちが宇宙人であることを自覚したとある一家の物語なのですが、
自分が金星人であると考えている娘が金沢在住の金星人のペンフレンドの男性に会いに
金沢へ訪れます。
この章の描写は、金沢ガイドそのもの。
兼六園はもちろん、前田利家と正室のお松を祀る「尾山神社」など
金沢の観光スポットが多数登場します。

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「尾山神社」は舶来のギヤマン(ガラス製品)をはめた
エキゾチックな三層の神門で知られていますが、
もちろん小説の中でもその描写があります。
しかもUFOとの交信と絡めて...。
階段の上に神門がすくっと建っており、
三層目にギヤマンがはめ込まれているのが見えます。
かつてはこの神門の三層目に御神灯が灯され、
日本海を行き交う船の目標になっていたのだそう。
もしかしたら、北の海の上を飛ぶUFOもこの灯りを頼りに飛んでいたかも
なんて、想像すると楽しくなります。


ちょっと異色なのが、恩田陸の『ユージニア』です。
金沢の名家で行われていた米寿を祝う席で17人ものひとが
毒殺される殺人事件にまつわる物語です。
文中では、北陸のK市となっていますが、金沢であることは明らか。
兼六園も日本三大名園のひとつということで、登場人物のひとりが
その印象について語るのですが、その語り口がすごい。
"権力の象徴"としてばっさり切り捨ててしまいます。
あぁ、さすがミステリーの名手。
恩田陸の目を通すと"美しい城下町"の陰の部分が強調されるのが興味深いところ。

金沢ゆかりの作家はまだまだいます。
直木賞作家の唯川恵は、金沢で生まれ育ち、
金沢の銀行で10年あまりOLをしていました。
だからか、彼女の描くのは、幻想でもミステリーでもなく、等身大の金沢。
『夜明け前に会いたい』では、金沢の町で育ち、出会い、
恋をする生身の女性が描かれています。

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悩みつつも前に進む主人公の背景に描かれる、ひがし茶屋街や香林坊のにぎわい。
金沢の冬は雷が多いことも、彼女の小説で知りました。


最後に忘れてならないのが五木寛之の存在。
奥さんが金沢出身ということもあり、まだ作家として有名になる前に
金沢に住んでいたことがあります。
五木寛之ゆかりの喫茶店が香林坊の109の裏でひっそりと営業しています。
五木寛之は、毎日の様にここへ通い、原稿を書いていたそう。
直木賞受賞の報告を受けたのもこの店で、今もその黒電話が現役で使われています。

ひがし茶屋街の近くにある「金沢文芸館」には「金沢五木寛之文庫」も。

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五木の全著作が揃うほか、直筆原稿などが展示されています。


ざっと挙げても、金沢ゆかりの作家はそうそうたるメンバーです。
小説を手に歩けば、作家たちが見つめた風景が次々と目の前に現れるのが
金沢文学散歩の最大の魅力かもしれません。

(取材・執筆 川崎 久子)