マイスターと世界遺産の知の旅へ by 山本厚子

日本の原風景・白川郷を訪ねて

 ブラジルで開催されていた第34回世界遺産委員会が8月3日に閉会し、新たに文化遺産15件、自然遺産5件、複合遺産1件の合計21件が世界遺産リストに加わりました。これで合計911件の世界遺産となりました。そのうち日本には、現在、文化遺産11件、自然遺産3件の合計14件の世界遺産が登録されています。来年の世界遺産委員会では、日本から申請している「平泉の文化遺産」と「小笠原諸島」のリスト入りが審議されるので、さらに注目が集まりそうです。

そこで、今回は日本の世界遺産を1つ紹介したいと思います。

白川郷1

岐阜県と富山県にまたがる「白川郷・五箇山の合掌造り集落」は、1995年登録された文化遺産です。今までに仕事で2度、岐阜県白川村にある「白川郷」を訪れたのですが、すぐそこまで山が迫った狭い土地に、いくつもの茅葺き屋根の合掌造り家屋が並んでいる風景は、いつ見てもなぜか懐かしさを感じさせます。まるで昔話の世界に迷いこんだような、日本人の心に響く風景があるのです。

白川郷2
↑集落全体を一望するなら、荻町城跡展望台へ。15〜20分ほど山道を登りますが、一見の価値ありです。シャトルバス(片道200円)も運行しています。

茅葺き屋根の合掌造り家屋は、豪雪地帯に生きる人々の知恵から生まれたものです。45〜60度の傾斜をもつ屋根は、積雪を防ぐためのものですし、釘などを使用せず、縄で固定する建築方法は雪の重みや風の強さに耐えるためのものです。何百年もの間、受け継がれていくうちに余分なものがそぎ落とされ、実用性・機能性のなかから造形のような美しさが際立ってきたのではないかと思います。合掌造りの家屋そのものも美しいのですが、四季折々に移ろう山々に抱かれた集落の風景は、日本の原風景と呼べるほどです。

白川郷3一般的な日本家屋と比べて大きな家が多いのは、大家族制を取っていたからです。平地が少なく、稲作にも不向きなこの地域では、養蚕、紙漉き、火薬の原料になる塩硝の生産など、大家族の労働力を活かした家内制手工業が発達してきたそうです。3〜5層になった家屋の上層部は作業場として利用されていました。国の重要文化財指定の和田家など、内部を公開している民家もありますから、じっくりとその構造などを見学できます。

白川郷4また、集落内には合掌造り家屋の民宿がいくつもあり、宿泊することも可能です。私も初めて訪れた時は、そんな民宿の一軒に泊まったのですが、宿のお母さんの唄う民謡『こきりこ節』を聞いたり、地元の名物・堅豆腐をはじめ、川魚や山菜、そばなど滋味豊かな夕食を味わったりと、白川郷ならではの体験を楽しみました。

宿泊するなら、観光バスが去って、集落内が本来の静けさを取り戻した夕刻の散策がおすすめです。辺りが暗くなり始め、合掌造りの家に明かりが灯った情景は、今も心の中に焼きついています。ぜひ1度お出かけください。

 

 

(取材・執筆 山本 厚子)

 

Tag

このページをSHAREする

最新記事一覧へ